天才策士は一途な愛に跪く。
額に滲む冷たい汗にゴクリと息を飲んだ。
思い切り手すりにしがみ付いたおかげで
何とか一番下まで落下せずに済んだのだった。
鞄が一階のタイルに落ちて散らばり、私は数段先まで転がり落ちていた・・・。
ゾッとするような光景にぶるりと震えた。
散乱した鞄の中身をすり抜けるように走り込んできた従業員は私の姿を捉えて
焦ったようにこちらへと階段を駆け上がる。
「大丈夫ですか!??お客様!??」
大きな音に驚いたようにロビーの客がこちらを見上げていた。
間抜けな姿勢で人々の視線に晒されていることに気づいて真っ赤になる。
ホテルの他のスタッフも、慌てて数人駆け寄って来た。
穴があったら入りたいくらい恥ずかしい・・・!!!
居たたまれず私は強く唇をかみしめた
身体を女性スタッフに支えられ、立とうとしたらズキっと腕に痛みが走り
顔を顰めてしまった。
「大丈夫です・・。有難う。」
「腕も、足も傷めてそうですね・・。病院に行ったほうが良いかもしれません。」
「あの、、大丈夫です。数段落ちただけですから。」
私は心配そうにのぞき込む女性スタッフに努めて平静に笑いかけた。
「お客様、一先ずホテルの主治医に診てもらいましょう。大きな怪我がなければ
いいのですが・・。すぐにそちらまでお運びしますので。」
恥ずかしさと、痛みで真っ青になった私はなすがままに担架に乗せられることになった。
そのまま、ホテルの医務室まで身柄を運ばれることとなった。
ベッドに寝せられた後も足はガクガク震え、腕や全身のあらゆる所に
痛みが走って目を細めた。
さっきのは何だったの・・?
医務室の白い天井を見ながら、ぼーっと考える。
背中に感じた、大きな強い手の感触が確かに残っていた。
急いでたから偶然、ぶつかったのかな?
ううん、違う!!
だってあれは・・・。
<・・バン!!>
ノックもなしに飛び込んできた人物に驚いて、私は枕の上から入り口のドアに視線を向けた。
息を切らして走ってきた遥と怜の姿を捉えた。
「大丈夫!?ちょっと・・階段から落ちたって聞いて・・!!」
真っ青な顔をした遥がベッドの私を見つけて駆け寄ってきた。
「おい遥、声が大きいって。ここ医務室だぞ!!」