天才策士は一途な愛に跪く。

「解ってるわよ。でも、だって・・・。」

怜は落ち着かせるように遥を窘めた。

「心配ばっかかけてごめん、ちょっと・・ドジしちゃって。」

「馬鹿ぁ！！疲れてるんだからちゃんと休まなきゃ駄目じゃない！！
もう・・。もう心臓止まるかと思ったんだから！！」

眉を下げて遥に謝ると、遥は顔をくしゃくしゃに泣きながら抱き着いてきた。

遥の温かい体温が私を包んだ。

その温かさに心からさっきまでの緊張の糸が解けていく・・。

「ごめんね、遥。」

さっきまで全身にあった震えが収まっていた。

「強く打ったところは湿布と包帯で対処しました。骨は折れてなさそうだすが・・。
もしご心配だったら、近くの病院へ行かれますか？」

「滑って数段落ちただけですから大丈夫です。
お手間を取らせて申し訳ありません、有難うございました。」

「いえ・・。本当に大丈夫ですか？お大事になさってくださいね。」

穏やかな雰囲気のお医者様は心配そうに私を見ていた。

私は、抱き着かれたままゆっくりと身体を起こすと
ベッドから足を下ろしてお医者様にぺこりとお礼をした。

「本当に大丈夫か？？だいぶまだ高い場所から数段落ちたんだろ？
どっか打ってたら大変だぞ？」

怜が心配そうに私を見下ろしていた。

遥も不安そうに私を見た。

「病院行かなくて大丈夫なの？？」

「寝不足でふらっと来ただけだから、、今夜ゆっくり休めば大丈夫だよ。」

「ごめんね、二人とも。今回の旅行では心配かけ通しで申し訳なくて・・・。」

この旅行では不穏な事ばかりが起こる・・。

寝不足の眩暈だけじゃなく、あの火を見た時に流れてきた
火災の映像・・・。

それにさっき突き落とされる前に背中に感じた強い故意の両手の感触。
あれは・・・強い意図があって思い切り押したものだった？

少なからず、私の心を酷く動揺させる事象が起きていた。

「何言ってんのよ水臭いな！！晶が無事で何よりだよ。」

私は腕と背中に走る痛みを気づかれないように堪えながら、サンダルを履いた。

背中に感じた違和感を自分の気のせいだと思い込もうと・・。
ゆっくりと立ち上がった。




「なん・・。なんだよ！！
どうしたんだよその包帯！？？」

私は朝から耳をつんざくような悲鳴と、失礼ながら人に指を指す無礼者に
上から下まで確認されていた。

私の前で指を指したまま大股を開いて青ざめていた瑠維を私はため息交じりに見上げた。

朝食会場に行くと、瑠維が私を見て大きな悲鳴を上げて騒ぎ立てていた。

寝起きのボサボサな頭で、ショートパンツにパーカー姿の瑠維は私の腕と手首に巻かれた包帯を確認した瞬間

さっまで眠たそうだった目を大きく目を見開いて騒ぎ立てたのだった。