天才策士は一途な愛に跪く。
眉を下げた慧は納得したようにため息交じりに手にもっていた書類を秘書に渡した。

「そうだな。法務のほうにも確認しないといけないか・・。ん?なんだよ聖人、何がおかしいんだ?」

肩を揺らしている聖人に顔をしかめた慧は呆れたように問いかけた。

「いやちょっとね。色々と・・。思い出してさ。」

クスクス笑う聖人に慧はいつものことのようにはいはい。と流した。

私はそのやり取りに関係の深さを感じて気が付くと、食い入るように2人のやり取りに目を奪われていた。

「・・・仲が良いんだね。二条くんと山科くんて。
なんだか不思議・・。」

ボソッと呟いた私の言葉に2人がこちらを向いた。

切れ長で整った慧と、優しい王子様然の容貌の聖人に見つめられて一瞬にして顔が沸騰してしまいそうな
熱を感じて下を向く。

「いや!!あの・・。ハ・・二条くんてあんまり人と喋らない感じだったし、山科くんは・・周りにいつも
人垣が出来ていて。
中学時代は、山科くんと、二条くんとの会話の場面て私、見たことなくて・・。」

あの頃の私は運動部に所属していたことから、髪は短いショートカットだった。

ガサツで、168センチの長身がコンプレックスだった。

自信がなかったあの頃。

唯一の私のオアシスだった山科 聖人は例えるなら殿上人のような存在。

「ああ・・・。そうだな。教室も違ったし大勢の前で会話なんてほとんどしたことなかったな。」

「でも、森丘さんと中学では3年一緒だったし、よく話したよね。僕のこと覚えてくれていた?」

斜め横に座っている聖人の言葉にわたしは驚いて目を見開いた。

学校の王子として騒がれるほどの有名人だった彼は今は更に身長も伸びて、更に大人の落ち着きを加えて
誰もが振り向くような魅力溢れる容姿になっていた。

「それは勿論・・。
山科くんを知らない人は、あの学校にはきっといなかったと思うわ。」

「そりゃそうだよな。聖人はあの頃から聖人だった。
そうだ、森丘さんも部活でも活躍してたよな。
それに・・。
ピアノのコンクールも総なめだったし表彰されることも多くて目立ってたな。」

慧は、私の言葉に同意をしたように頷く。

「ハ、二条くんのピアノには負けるよ。
貴方のピアノ聞いたときに私は驚きを通りこして感動したもの!!
美桜ちゃんに強請られて弾いていた貴方のピアノ素敵で、いつも練習しながら耳をダンボにして聞いてたもの。」

「ああ、森丘先生にはお世話になったな。
厳しかったけど、才能はすごいある先生だったな。」

「そうだね。ありがとう・・。」

懐かしい・・。

ピアノを弾き続けていた日常を思いだした私は
人より生まれつき長さのある指をぎゅうっと無意識に
握っていた。

私は胸がチクリと痛んだ。

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