天才策士は一途な愛に跪く。
「まずは、君を安全な場所に運ぶよ・・。話はそれからだ。」

聖人は眠ったままの彼女に優しく声をかけた。

「ああ・・。俺はここに残って捜査に協力する。
彼女はドクターヘリに乗せて病院へ運んで処置すれば大丈夫だ。」


「今日中に帰らないと。
明日は美桜の誕生日だからな・・。
・・・急ぐぞ」

彼の傍にいた数名の私服警官たちが大きく頷いた。

「すまないな・・。
しかし、万が一の為に君にも来てもらって良かった。
感謝してるよ、君にも・・。西園寺のおじさんにもね。」

その言葉に、慧は何とも言えない表情を浮かべて笑った。




----森丘 晶は夢の中にいた。

子どもの頃から、彼女は「家族」に「雨女」とあだ名をつけられた。

晶の楽しみにしているイベントや、誕生日などの特別な日はいつも雨が降る。

子ども心にそう言われて、傷つくこともあった。

母はピアノのコンクールがいつも雨なのは
彼女のせいだと呟いた。

その言葉に、ドレスを着て窓の外を静かに見つめていた晶は胸を痛めていた。

毎年の発表会はほとんど雨模様。

だけど、私には楽しみにしていることがあった。

白い薔薇が初めて届いたのは、5歳の秋の発表会だった。
毎年、一本づつ増えていく贈り物が届くことが楽しみになった。


楽屋に届いた白い一本の薔薇は、棘が落としてあって赤いリボンがかけられていた。

私宛のメッセージと共に・・。

たった一言だけ記入されたメッセージカードは12枚溜まった。

ピアノを辞めた最後の発表会の日を最後に白い薔薇が届くことはなかった。

そして、もう一つ別に毎年の発表会にプレゼントが届いていた。

毎年、違う模様の傘がプレゼントとして届けられていた。

イエローの折り畳み傘、ブルーのストライプ柄のお洒落な傘・・。
小花柄のピンク色の可愛い物もあった。

それらはみんな私の大切な宝物になった。

いつの間にか苦痛になっていたピアノを続けられたのは、毎年自分を応援して
くれる誰かが、楽しみに聞きに来てくれてるって思っていたから・・。


「運動会・・。みんな張り切ってるね!!
居残り練習に全員が残るなんて、正直びっくりしてる。」

私は日誌を書きながら、教卓の前で黒板を消している山科聖人に笑いかけた。

身長がスラりと伸びて、細いのに肩ががっしりしていた。
王子様のような中性的な美少年ぽさは変わらないのに、男っぽさが出てきた背中にドキドキした。

「みんななんだかんだで行事が好きなんだよ。
お祭り騒ぎって、非日常な感じがして確かに楽しいよね。」

黒板消しを置いた聖人が私に向き直って優しい笑みで答えた。
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