天才策士は一途な愛に跪く。

「一つだけ君に質問したい事があるんだけど。いいかな・・?」

急に空気に緊張感がピリッと走り、私は不思議に思った。

「うん。私で良ければ。」

首を傾げて窓辺にもたれかかる聖人を見上げた。

彼は長い睫毛を揺らして、ゆっくりと私に質問を投げかけた。


「自分の一番大切なものが突然なくなってしまったら。君ならどうする・・。」

寂しそうな横顔を見せた聖人に、私は一瞬驚いて顔をあげた。

いつもの彼ではなく、彼の本音にある大切な根幹の部分だと直感で感じた。

視線を天井に向けて、私はゆっくり考える。

「・・・どうって。」

「うーん・・・。どうするんだろう・・。」

思いもよらない咄嗟の難問に
私は大きく目をパチクリしながら悩む。

「もしも、自分の大切な物を奪った元凶の相手の身内が謝りに来たら・・。
君ならどうする???」

緊張した様子の聖人に努めて冷静に答える。

「そうだね・・。私なら・・。きっとその人の謝罪を聞くかな。」

私の答えに驚いた表情で、ジッと私を見下ろした。

「普通、会いたくないでしょ?そんな奴の身内なんて・・。」

「んーー・・。関係ないと思う。だって、その人じゃないんだし・・。」

「例えば、張本人は謝罪の気持ちも微塵もなくて・・。
どうしようもない人だったとしても??」

真剣な表情の聖人は、私の一挙一動も見逃さないような緊張感を醸し出していた。

何でこんな事を聞くんだろう??

私には心当たりが全くない。
戸惑いながらも思案した。

「でも、謝りに来た人はちゃんと相手の痛みを感じられる人でしょ??
私だったら、勇気を出して謝りに来た人の話をちゃんと聞きたいけど・・。」

私は、何もなしにさらりと聖人の質問に笑顔で答えた。

一瞬だけ静けさが流れた。

「はっ・・。」

あははははっ・・。

急に聖人が笑い出して、私はびっくりして彼を見上げた。

「森丘さんて、心底人のいい。お人好しだな!!」

彼の質問の意図が全く分からなかった・・・。

「そ?そうかな・・わかんないや。」

私は不思議そうな表情で聖人を見た。

全然、彼の欲しい答えとは違ったかもしれないけど・・。

「でも・・。森丘さんに聞いてよかったよ、急にごめん。有難う・・。」

見たことがないほど、聖人は優しい眼差しで私を見つめた。

くしゃっと柔らかい琥珀の瞳が細められて
まるで宝石のように、キラキラ輝いた。


あの日の聖人の笑顔は、そのまま私の記憶に焼き付けて離れなかった。

心の底からの笑顔が眩しくて、嬉しかった。

話せば話すほど、どんどん好きになっていく・・。

人気者でミスターパーフェクト。

そしてあの山科の御曹司の彼に・・。

私とは別世界の人だって解っているのに。

「好き」だって言いたかった・・。

想いが叶うことがなくても、私は貴方が好きだと伝えることが出来たなら・・。
それだけでいいのに。

そんな想いを・・。
私はもう一度思い出していた。


「「・・・・きら。あきら。」」


私を呼ぶ声が聞こえた気がした。

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