天才策士は一途な愛に跪く。

頭は重だるい・・。

目をゆっくりと開くと白い天井が見えた。

ズキズキと痛む頭を動かそうとしても力が入らなかった。

私の視界に、さっきまで夢の中で会っていた人が映し出された。

「晶、・・目が覚めた？？」

さっきよりも少し大人びた山科聖人の姿が瞳に映る。

心配そうな表情で私を見下ろしていた。

「良かった・・・。晶の目が覚めて・・良かった。」

泣きそうな顔で私の手をぎゅうっと握った。

その手はとても温かった・・・。

「山科くん・・。あれ、わたし・・。」

さっきまでは中学の教室で日直をしていた夢を見ていた。

だけど、私は・・。
どうしてここに・・？？

点滴が下げられていた。

・・ここは病院！？

起き上がろうとしたら、そっと肩を聖人に抑えられた。

「駄目、ちゃんと寝てなきゃ駄目だよ。君は海に投げ出されて溺れかけたんだから。」

そうだ・・思い出した！！

私、水上バイクから振り落とされて溺れかけたんだ。

だけど・・。

「山科くんが・・。あの時、山科くんの声がして。
私のこと、助けてくれたんだね・・・。」

私は泣きそうになりながら、聖人の頬に手で触れた。

心配そうに見下ろす聖人は、切なそうに頷いた。

「はぁぁぁあ・・。本当に、無事で良かった・・。
あのまま海の底に晶が沈んでしまったらと思うと・・ゾッとしたよ。」

私も、あのまま沈んでしまうかと思った・・。
だけど、意識を失いかけた時聖人の声が聞こえたような気がした。

「あの、インストラクターの人や・・、瑠維は無事？？」

「無事だよ・・。
君は・・。君って人は。
自分が死にかけたのにいつもそう・・。
すぐ他の人の心配するんだから・・。」

呆れたような表情の聖人は、ため息交じりに笑う。

整った聖人の顔を見つめながら、私は涙が零れた。

「あのね、さっきまで・・。
中学時代の山科くんと話をしてたんだ。夢の中で・・。」

「そうなんだ・・。それは、光栄だな。僕たちは、どんな話をしてた？」

「貴方が、私に・・。不思議な質問をしたの。
大切な物を奪われたらどうする？
その身内が謝罪に来たらどうする？って・・。」

その言葉に、聖人は驚いたように大きく目を見開いた。

私は思い出すように、ゆっくりと話を続けた。

「私は・・。その謝罪を聞くって貴方に伝えたら・・。
驚いたような顔をして、お人好しだって言われた。
昔っから・・私は貴方にそう思われ・・・。」

ガタッ・・。

次の瞬間、私の頬に柔らかい物が当たっていた。

すぐ側には聖人の爽やかなシトラスの香りがした。

椅子から立ち上がった聖人にぎゅうっと強く抱きしめられた姿勢になっていた。

「君は、本当に・・。稀有な存在だよね・・。
馬鹿正直で、信じられないくらいお人好しで・・。
そして、僕が知っている誰よりも優しい人なんだ・・。」