天才策士は一途な愛に跪く。
「そうなのかな?そんな事思ったことないよ。」
笑いながら否定をすると、抱きしめられる腕の力が強くなった。
温かくて心地いい胸の中に包まれて、彼の少し早い心臓の鼓動の音が聞こえた。
「知ってる。君が自覚がないことぐらい・・。
だけど、僕はそんな君だから好きになったんだ。」
落ち着いた声だった。
例えるならアルトの音域の優しい声で、私の耳元に囁いた。
途端に私の心臓が早鐘を打ち始めて、大変だった。
「あ、あの。何かその・・。
やっぱり。信じられないっていうか・・・。
貴方に好かれてるって、そんな夢みたいな話・・。」
聖人の背中に回すことに躊躇して彷徨う両腕は、行き場を失って忙しなく動いていた。
顔を起き上がらせると
至近距離に迫った大きな薄い茶色の瞳とバッチリ目が合った。
長い睫毛がバサッと大きく揺れた。
あまりの美しさと、格好良さに・・。
ドキドキを通り越した私は、正直、恥ずかしすぎて目を反らしたくなった。
「本当に夢にしちゃうの?
僕とのことも、僕の気持ちも・・。
君はそれでいいの??」
見透かしているような表情と、挑むような瞳が目の前にあった。
私は困った顔でブンブンと横に首を激しく振った。
「う、ううん!!違う、違うの・・。だって・・・。」
「「良くない・・!!そんなの、嫌です。ごめんなさい!!」」
そう口で言おうとした瞬間に私の視界に影が出来た。
柔らかい唇が私の冷え切った唇に重なっていた。
「・・ンンッ。んンっ・・。っ。」
聖人の瞳は閉じられて、長い睫毛が間近に見えていた。
鼻腔を擽る甘く爽やかな香りと、唇に感じる官能的な
甘さと柔らかさに私は驚いたように大きく瞳を見開いた。
身体の力が入らない状態で、深く、
何度も角度を変えて唇が重なる。
「駄目・・!!山科くん・・。」
こんな深くて激しいキス、知らないしっ・・!!!
初恋を拗らせたせいで経験不足で大人になってしまった
私は、何が起きてるのか理解出来なかった。
真っ赤なゆでだこのように赤く
ぐったりと力が入らなくなった。
「晶の気持ちが・・。今は、僕になくてもいいよ。
ただし、僕は君にはっきりと自分の気持ちを示させてもらう。
逃がさないからね。」
彼に、こんなに強引なところがあったんだ・・!?
翻弄されっぱなしの私は夢のような出来事と言葉の連続に
理解力が到底追い付かなかった。