天才策士は一途な愛に跪く。
私の母に師事していた慧と、山科 美桜とは幼少期からの幼馴染のような関係だった。

特に、美桜ちゃんは落ち着いた美人でとても年下には見えなかった。

海外の大学院で研究論文を執筆した彼女が開発したスケールは私の仕事に役立つかと

CEOの立場であった二条慧にパーティで声をかけられ、慧の妻となった彼女に再会したことから

意気投合して、彼女の帰国後は私のラボで一緒に共同研究をするようになっていた。

今日の講演で使用するスケールは彼女の開発したものだから聖人も興味を持って顔を出してくれている
んだろう。

二条ホールディングスと、山科メディカルは日本では屈指の企業だった。

数年前に山科に警察のメスが入った事件があった。

しかし、そこから数年の後聖人の手腕で山科が再興されて今や過去よりも世界的な企業として
海外戦略にも乗り出していっていた。

「着きました。
森丘先生、今ドアを開けますので少々お待ちください。」

秘書の女性は肩までのカールした髪を耳にかけて、そっと立ち上がり一足先に降りた。

「あ、ごめん!!先に降りる。美桜が来てるみたいだ。」

スマホを見て、嬉しそうにほほ笑んだ慧を見た聖人は優しい笑みで頷いて先を促した。

慧と美桜の幸せそうな空気感が私は好きだった。

「うん。どうぞお先に・・!!」

嬉しそうに目が細められた慧の嬉しそうな表情に思わず笑みがこぼれていた。


「ガチャ・・。」


ドアを開けた瞬間、外の雨音が激しく聞こえた。

その雨音に少しだけ身が竦んだ私のふらついた腕を聖人がそっと支えた。

驚いて見上げた視線の先に綺麗な茶色の瞳と長い睫毛が私の目と鼻の先に見えた。

心臓が聞いたこともないくらいに早鐘を打ちはじめた。

・・・なにこれ!!?


触れられた腕すら発火したように熱を感じて取り乱しそうになる

「森丘さん、大丈夫?」

大丈夫だけど、大丈夫じゃない感じです!!

って口から零れそうになる本音をなんとか飲み込む。
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