天才策士は一途な愛に跪く。
「おやすみ、晶。」

僕は彼女の伏せられた長い睫毛のすぐ側に、そっとキスを落とした。

すやすやと静かに眠る晶の色白の頬は、さっきと違ってピンク色になっていた。
血色の良くなってきた彼女の様子を確認して一安心した。

「君は・・、たった一言で絶望していた僕に希望をくれた。
復讐には邪魔な感情だって何度も消そうとしたのに・・。」

赤茶色の長い髪を一房取る。

太陽に照らされると、綺麗な紅になる君の髪。

・・・どうしても消せなかった。

僕は君のその髪に触れたかった

大きな病室の中にはソファセットと、大きなベッドの横に
は付き添い用の椅子が置いてあった。

窓の外は市街地の景色が一望できる。

窓の外を静かに眺めていると、病室のドアが開いて誰かが入出してきた。

「・・・慧、どうだった?」

背中を向けたまま、靴音でそれが二条慧だと解った。

「聖人・・。すまない。船のほうは取り逃がしたようだ。」

「そうか・・。有難う、君の手を煩わせちゃったね。」

振り向くと、封筒を手にした慧が口角を上げて立っていた。

僕は不思議に思って慧に声をかけようとした時だった。

「ただし、お前が調べて欲しいと言った件は調査済みだ。
面白いことが解ったぞ。これを見てくれ。」

僕は書類を受け取ると、一枚一枚に急いで目を通した。

驚くべき調査結果に声を失った。
最後まで読み終えた僕は、近くにあった長いソファに身体を預けた。

慧は向き合ったソファに腰を下ろした。

「警察がいくら操作しても出ない筈だな。その権力を超えた所に帰着する訳だ・・。」

皮肉めいた笑みを浮かべて、呟いた。

またしても、忌まわしいあの人物の影が脳裏を過る。

「ははは・・。・・何が、何がお人好しだ・・よ。」


ウィンドウ越しの窓から、傘を差した女の子が悲しそうに空を見上げていた。

あの日、起こった出来事は・・。

「僕が・・。また彼女の運命の一部なんて!!だって、そんなのあまりに残酷じゃないか・・。」


聖人は美麗なその顔を苦しそうに歪めて、ギリッと唇を噛んだ。

その様子を不安気な瞳で慧は見つめていた。

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