天才策士は一途な愛に跪く。
火災・・!?

その単語にザワザワと不穏な感覚が身体中を駆け抜けた。

この間、見えた映像が再び蘇ってくる。


   「パリーン・・!!」


窓ガラスが割れて、そこから吹き出した炎のビジョンが蘇る。

煌々と燃え上がる炎に包まれた建物の前に、私は立ちすくんでいた。

誰かが私の後ろから飛び出して、炎に包まれた建物の中へと駆けていく。

「いやっ!!行かないで!!ダメだよ・・。
行っちゃダメーー!!!」

「「「・・・ドオオォォォン!!」」」

私は信じられない光景に息を飲んだ。

「いやーーーっ!!!」

小さな子供の声だった・・。

泣き叫ぶような大きな声は爆発の音にかき消される。

暴れて泣きながら「私」は、炎の中に行きたかった。

だけど、誰かに押さえられて身動きが取れない私は・・・・。

ズキン・・。

何・・!?

今の映像は何なの・・。


「・・大丈夫?!顔が真っ青だよ!?」

ハッと、現実に戻ると聖人が私の肩を掴んでいた。

心臓は早鐘を打ち続けていた。

「いや、何でも・・。何でもないよ。
あの!!マンションの住人の人たちは・・無事!?」

「幸いなことに、怪我人すら出てないようだよ。」

恐る恐る聞いた質問に、柔らかい声で返答が返る。

ポツポツ、降り出した雨がウインドガラスに強く当たっていた。

「うん。ボヤで済んだと報告が来てる・・。
ただし、君の家は損傷が激しかったみたいだ。
火災のニュースは既に新聞にも載ってるし、隠しておけないと思って。
マンションのオーナーとも話はしてある。
無事だった荷物は、うちに運び入れてもらってるよ。」

先日の階段の事故から携帯の画面はひび割れて
使えなくなってしまっていた。

連絡の取りようのない状態で起こった火災・・。

私が狙われている理由に全く心当たりがなくて眉根を寄せる。

更に、山科くんの対応が用意周到すぎて・・。

さっきから、どうリアクションしていいのかが解らない・・・。

「山科くん、もしも、・・狙われてることに理由があるとすれば何なのかな。」

「そうだね、理由があるとすれば・・。きっと、君の研究に関係があるだろうね。」

冷たい汗が背中を伝ったような寒さを感じた。

その言葉に私は驚きを隠せなかった。

何となくだけど、心の何処かでその予測はついていた。
その問いを聖人にぶつけた。

「もしかして・・。今度発表する研究論文が関係しているの?」
< 72 / 173 >

この作品をシェア

pagetop