天才策士は一途な愛に跪く。
「君の論文はあらゆる意味で革新的すぎる・・。
素晴らしい物だと僕は思うよ。
だけど・・。
その革新的な研究を前にして、損得で考える人間がいるんだ。」

損得・・。

利権を得る人間と、不利益を被る人間の両者が生まれると言うこと。

研究者たる人間は、その部分は心得てはいるけど・・。

「だけど、良い物であればあるほど・・。人はそれを欲しがるんだ。
そして、それを手にできない人間はあらゆる手段を使う。」

痛みを堪えた表情の聖人の横顔に、私は何も言えなかった。

「・・・だから、僕は君を守りたい。君の作り上げた研究も含めて。」

眉を顰めた聖人の怒りを静かに秘めた表情を不安気に見つめた。

山科くんは・・。

私を守りたい・・??

・・私の研究を守りたいの??

疑心暗鬼が生みだした私の不安に自分で困惑していた。

不安に感じながらも、その質問を口にすることは出来なかった。

ザァァァァ・・・っと降り出した雨の音が響く。

雨に濡れたネオンが煌めく繁華街を、私達を乗せた車が駆け抜けていく。



駅前の華やかな喧騒からは離れて、山道を登る。
閑静な住宅街へと入り込んだ。

静かに停止した車と、カチャッと静かにシートベルトを外した聖人の様子に
私は彼の家に到着したことに気が付いて緊張が走る。

「どうぞ、森丘様。」


秘書の男性が恭しい礼を取り、ドアを開いて降車を促した。

大きな3階にも及ぶ、鉄筋コンクリートの一戸建ての邸宅の
エントランスは屈強な警備システムに守られていた。

車は地下に収納された様子だった。

執事のような黒いタキシードを着た男性数人地下から地上へ上がる
大きな扉の前に現れた。

みんなが礼をして出迎えてくれた。

この緊張感・・。

ドラマや、映画の中の世界みたいじゃない・・!!

「さぁ、どうぞ。」

ドキドキとあまりの緊張に正気を保ってることが難しい・・。

私はゴクリと喉を鳴らした。
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