天才策士は一途な愛に跪く。
私を急に山科メディカルに欲しいと懇願してきた
彼に、一種の違和感が消えた訳ではなかった・・。
その不安は燻って、段々と大きな不安になっていった。

利用されてもいい・・。彼が「私」を必要としてくれるのならば。

そう思っていた。

「知っているかも・・。」

「・・だけど、それは推測の域で、まだ君には話せない。」

きっぱりと伝えられた言葉に私は戸惑った。

どうして・・。

こんなに不安で一杯なのに!!

足元から崩れ落ちそうな恐怖感に支配された私は困惑していた。

「何で!?・・・だって、実際に私は狙われて・・。
みんなに、貴方にも迷惑をかけてるのに・・。」

聖人は、苦しそうに私を強く抱きしめた。

「君は悪くないよ!!悪いとしたら・・あいつのせいなんだ!!
だから守らせてくれ・・。僕が君を守りたいんだ!!」

聖人の激しい感情を帯びた言葉に、私は驚く。

一層、強く抱きしめられながら私の頬から涙を零れ落ちた。

「僕が君を好きな気持ちだけ・・、信じて!!
晶が幸せになるなら・・僕は何を失くしても惜しくない。」

「・・・そんな、馬鹿なことを言わないでよ、
そんなの嫌よ、望んでない!!」

背中のアザに当たらないように、抱きしめている彼の腕が離された。

「いいかい?・・君は、偽物なんかじゃないんだ。
どうあがいても、アヒルでしかない僕とは違う・・。」

意味深な言葉に、優しい笑顔の聖人を見上げる。

「アヒル・・??わかんないよ・・全然、わかんない!!」

切なそうに聖人の瞳は細められる。

今の言葉は・・。

どういう意味なの??

温かい手が私の頬に触れた。

「もう少しだけ、待ってて・・。
真実が公になるその時には、僕が君を守るから。」

泣きじゃくる私の涙をそっと優しく拭った。



「ただいま・・。」

ドサッと大きなボストンケースを赤い絨毯の上に置いた。

不機嫌そうに帰宅した瑠維は、リビングで新聞を読む父の姿を見つけて
固まる。

「どうしたの・・。こんな、早くに家にいるなんて・・。珍しい。」

皮肉を込めた言葉を吐き捨てた。

重厚なレザー張りの茶色いソファーに腰かけた瑠維の父、南條 徹は持っていた
新聞をテーブルの上にバサッと置いた。

口角を上げて瑠維を見上げた。
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