天才策士は一途な愛に跪く。
顔と顔の距離が数十センチで、腕を支えられたまま笑顔で話しかけてくる王子の眼差しに・・。

私はどうしていいのかわからずに
「う、うん・・。」と心の籠らない相槌をした。

「僕のこと。覚えていてくれて嬉しいよ。
13年以上会ってないのにね・・。」

13年と聞くと、余りに長い時間拗らせた想いを
引きずっているんだと自覚する。

「そんなの!!わたしのほうこそ・・。」

その言葉に掴まれた腕がピクりと動く。

「まさか、山科くんが
私のことなんか覚えているなんて・・。」

その言葉に、一瞬だけその場の温度が冷たくなった気がした。

え??

私なんか・・。
まずいこと言ったのかな??

頭が回らないまま、困ったように見上げるといつもの王子様スマイルを浮かべて大きなアーモンド型の瞳を嬉しそうに細めた。

「僕がきみを忘れるわけないでしょ?
そこは可愛いんだけど、自覚ないんだね。
変わらない・・。」

「・・山科くん??」

驚いた私の顔に距離を詰めるように落ちてきた聖人の中性的な美しい顔に私はどうしていいかわからずに身を離そうと背を倒す。

その瞬間に、聖人の瞳が瞬いた。
腕をぐいっと掴まれると、私は目を大きく見開いた。

さっきまでの穏やかな笑顔が消えて
瞳に鋭さが光った気がして、私は息を殺した。

だけど・・。
あまりの緊張のせいか、、
身体が思うように動かない!!

どうしよう・・!?

ぎゅうっと眉根を寄せて目を閉じると。

「ガチャッ」と車のドアノブが開く音がした。

ドアの外で傘を用意した人物が立っていた。

「準備はできてますが?
あの、どうかされましたか??」

いつになっても降りてこない私たちを心配した秘書が確認の為にドアを開けて身を乗り出してきた。

「何でもない、大丈夫だよ。
さぁ、段差があるから・・。
そこ、気をつけて降りてね。」

「あ・・。ええ。有難う。」

ゆっくりと外の冷たい空気に身を晒すと
身体に現実感が戻ってくる。

なんだったんだろう・・。

さっきまでのドキドキ静まらない胸の音が耳に煩い。

後ろからゆっくりと降り立った聖人の靴の音に耳が集中していた。

エントランスのドアの前で聖人に似た美しい女性が慧と並んで立っていた。

栗色の髪をひとつに纏めたスーツ姿も似合うなと私は目を細める。

優しく落ち着いた女性・・。

誰が見ても認める美男美女のツーショット姿があった。

私の前で美桜が大輪の薔薇の花のようにほほ笑んでいた。

「あ・・。森丘さん!!待ってたの!!
今日は宜しくお願いします。」

「到着が遅れて申し訳ありませんでした。美桜ちゃん。こちらこそ、どうぞ宜しくお願いします。」

気さくな笑顔で私に嬉しそうにほほ笑んだ彼女につられて私も笑顔になる。
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