天才策士は一途な愛に跪く。
暴かれし秘密。
銀色の光を浴びた鍵盤の上を流れるように指が滑りおりていく。

ピアノの音が鳴り響く・・。

リストの超絶技巧の練習曲「マゼッパ」

グランドピアノを「彼女」が奏でていた。

鬼気迫る迫力の演奏に僕は驚いて目を見張った。

リビングのドアの隙間から、覗き見た僕はその姿から目を反らせない。

美しく、妖しく奏でられる音楽に魅入られていた。

「「・・・どうしたんですか?」」

電話の主に動揺を悟られたらしい。

「いや・・、何でもないんです。
それよりも・・、見つかりましたか?」

「「はい・・。やはり、貴方の言ってた通りの結果でした。
対象の人物は・・・・・・・。」」

「そう・・。残念だけど、僕の予想通りの結果でしたか・・。」

電話の相手へと2つ指示を出すと、通話ボタンをオフにした。


聖人は、リビングのドアを開けた。

そこには、ブラウスとスカートの姿のままでピアノを奏でる晶の姿があった。

彼女は長い髪を後ろでシュシュで纏めて、スリッパを脱いでストッキングのまま
荒々しくペダルを踏んでいた。

感情が乗ったピアノの音は、激しく聖人の心を揺さぶった。

揺れている、震えている・・。

そして、悲しみと怒りが込められた演奏は迫力があるものだった。

久しぶりの彼女の演奏に身体が震えた・・。

こんなに、鬼気迫る演奏を聞いたことがなかった。

「・・晶。」

呼びかけると、彼女のピアノの音は止んで痛みを堪えた瞳と目が合った。

「ごめんなさい・・。勝手に演奏して。」

「構わないよ。君のピアノは久しぶりで・・。
それに、君の演奏じゃないような迫力がある、荒々しい演奏だったんで・・。正直、驚いた。」

「今は・・、弾くことで忘れたいの。」

全てを・・。

その言葉を晶は飲み込んだ。

聖人は、持っていた紙袋から大きなケースを取り出した。

「明日のパーティに身に着けて行って欲しいんだ。
この中にある、君の好きな宝石をつけて参加してくれるかな。」

私は、パカッと開いたジュエリーケースに収められた数個のネックレスの煌めきに
驚いて目を細めた。

サファイヤ、ダイヤモンド、ルビー、エメラルド・・。

様々な宝石が、大きめのカットで納められキラキラと光を放っていた。

「嘘!?こんなの・・。付けられないよ!!どれも高級そうで・・。」

「大したことないよ。君が選んだ1つを、身に着けて欲しいから見てくれないか?
うちの新規事業の花形として、彩を添えて欲しいんだ。」

聖人は、琥珀色の瞳を嬉しそうに細めて私を見下ろしていた。

サラサラの前髪は、私の頬に当たる距離の近さで私に箱を近づけた。
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