妖狐に染めし者
1.逢瀬と別れ
【平成2009年の梅雨入りの時期】

僕はまた母の虐待を受けていた。

「あんたがいるせいで、あたしは結婚できないの

よ!はやく母さんのために死んで!」

そう言って僕の首を絞める。僕は抵抗せずに、ただ

思うがままにされているだけ。いつもの拳よりは相

当苦しい。それでも抗ったら、母さんはきっと泣く

だろう。

「なんで死んでくれないの?」って。

もう痛みを毎日感じるのは嫌になった。もうここで

楽に死んでしまおう。

その時、急に母さんの手は緩んだ。とっさに僕の手

をぐいっと引っ張って、裸足のまま外に追い出され

た。

「ゲホッ!…ゴホッ!…母、さ…」

「もう顔も見たくない。この家にはもう帰らないで

。」

と言って、ドアの鍵をかける、ガチャッ!という音

が最後に聞こえた。

僕は、母さんの言う通りにボロボロのまま、家を離

れた。

一歩一歩踏む足が、たくさんの石で汚されて、血ま

みれになって、痛い思いを押し殺しながら、遠くの

山の大きな木まで歩いて行った。


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