妖狐に染めし者
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隠り世に戻ると、私はすぐさま父の元へ行き、結婚

の取り消しを頼んだ。

父は、

「まぁ、お前の意思を無視して決めてしまったもの

だ。うん、いいよ。黒の旦那には、僕から伝えて

おこう」

と言ってくれ、私は、

「ありがとうございます」

と言い、自分の部屋へと戻った。

そのあと女中さんたちが、

「御手伝いをしに参りました」

と、部屋を覗いたが、私は

「大丈夫です」

と言い、1人部屋に残った。

髪飾りを取ろうとすると、いつのまにか、花簪だけ

がなくなっていることに気づいた。

私は、すぐに着替えを済ませ、片付けをし、花簪を

探しにいった。

部屋の中にも、廊下にも、書庫にもなく、女中さん

たちに頼んで探すようお願いしたものの、結局は、

屋敷のどこにもなかったそうだった。

私は、一旦部屋に戻り、心当たりがないか探ってみ

た。そして、時雨さんといた日を思い出す。

「もしかしたら、あの場所に…」

私は現世へもう一度行くことを躊躇った。ちゃんと

時雨さんと約束した時に行こうと思ったから。簪は

諦めて、私は私がいますべきことをしよう。そう思

い、私はすぐさま書庫へ向かった。

書庫へくると、『あの本』を取り、自分に術をかけ

る。すると、私の左胸のあたりに、紫陽花の模様が

ついた。きっとこれは、術にかけられた意味を表し

ているのだろう。はやく時雨さんに逢いたい。そう

思いながら、私は自分の部屋へと戻った。
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