妖狐に染めし者
2.想いの交差
**

あの謎の日から9年の月日が経つ。俺はあの日から

ずっと、妙な夢を見ていた。

俺はずっと山に行っていて、行く度に、白銀の長い

髪の女の人が立っていて、狐の耳と尻尾がはえてい

た。狐の妖怪だとすぐにわかったけど、顔はよく見

えなかった。だけど、彼女の美しさはわかる。俺は

彼女のことがーーー。

「時雨ぇ。聞いてんのかよぉ〜」

俺はその言葉でハッとした。

「ごめん、光(コウ)。ボーッとしてた。何だっけ?」

「だから!何で俺はモテないのにお前はモテるんだ

って話!わざとかお前!」

そう言って光は机に顔をつけた。そしてそのまま顔

を俺に向けた。

「お前、告白めっちゃされてんのに、何で付き合わ

ねぇんだよ」

「別に好きじゃないから」

「即答かよ!」

そう言ってまた顔を下に向けた。それと同時にチャ

イムが鳴る。

光が席に戻ると、伊波先生(イナミセンセイ)が教室に入っ

てきた。

「よし、全員いるな。出席は…、いいか。どうせ、

『あいつ』だけサボりだな。単刀直入に言う。転

入生がきた」

「いきなりきたな…!」

誰もがこう思った。そうして中に入ってきたのは、

「し、失礼します」

誰もが目を大きく見開いた。綺麗な白銀の長髪に翡

翠色の瞳。美しい顔立ちの人だった。

「よし、じゃあ自己紹介。んー…、適当でいいか。

よろしく」

「は、はい。えと、紫 姫花(ムラサキ ヒメカ)です。よろし

お願いいたします」

「じゃあ、席は向こうね」

先生がそう言うと、彼女は「はい」と返事をし、光

の後ろの席に座る。

「ん。じゃあ授業始めるぞー。んじゃまず、自己紹

だな。紫は言ったから、他の奴らだけな」

そうして、次々と自己紹介がされていく。俺は少し

集中ができなかった。紫さんは、夢に出てくる彼女

に似ているから。日本人っていったら黒髪だけど、

紫さんは外国人じゃなさそうだ。でも、白銀の髪は

珍しかった。瞳の色も、やっぱり普通の人とは違っ

ていて、翡翠色だ。もしかしてハーフかな。

そう色々考えていると、紫さんが、こちらを見てき

た。すると口を動かし、何かを伝えていた。俺は、

それをボソッと口に出しながら、聞き取っていた。

「も…う…す…ぐ…で…す…よ…」

俺はハッとし、前を向く。すると、俺の番は近づい

ていた。俺は、また紫さんの方を見て、「ありがと

う」と口を動かした。

紫さんは気づいた様子で、微笑む。その顔に少し、

胸のあたりに違和感を覚えた。

「次、葵」

「はい。葵 時雨です。よろしくお願いします」

俺は、自己紹介を済ますと、いつのまにか、紫さん

の方に顔が向いていた。その時、また胸に違和感を

感じる。

紫さんの微笑みは、『花』のようだった。
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