時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
アメリとカールは、そのまま奥の間へと案内された。応接室に入る直前で、「あなたはここにいて」とアメリはカールに告げる。


予言の書の存在は、極秘事項だ。ましてやアメリが改ざんをもくろんでいることなど、最小限の人間以外には知られてはいけない。


「ですが……」


カールは口ごもりながら、ちらりとケプラーを見た。どうやらこの赤毛の騎士は、不愛想な占星術師を不審に思っているらしい。


「大丈夫よ、カール。心配しないで」


「分かりました。くれぐれもお気を付けください、アメリ様」


アメリに圧され、カールはしぶしぶ承諾した。






パタリ、と扉が閉まる。


薄暗い室内は、壁のほとんどが書架で埋め尽くされ、見たことのない言語の本が並んでいた。壁の中央にある暖炉の上には、所狭しと蝋燭や燭台、水晶玉などが並んでいる。


ケプラーは深緑色のビロード地が貼られたソファーにドサリと座ると、気だるげに長い足を組んだ。


「で、国王の婚約者ともあろうお方が、こんな薄汚れた占星術師の邸に何の用ですか?」


「……知っておられたのですか?」


「知っていますとも。町へ行けば、あなたの噂で持ち切りだ。たいそうな人気ですよ。あの悪獅子の心を射止め、街の人からの人望も厚い。どうぞ、遠慮なく腰かけてください」


どことなくアメリを嘲るようなケプラーの言い方が、アメリは引っかかる。だが、本題は彼と仲良くなることではなく予言の書の改ざんだ。


アメリはケプラーに促されるがままに彼の向かいに腰かけると、図書館司書のルドルフの目を盗んで胸もとに忍ばせた予言の書を取り出し、テーブルの上に置いた。


ケプラーの瞳が、その小さな古書に釘付けになる。
< 13 / 47 >

この作品をシェア

pagetop