時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
ケプラーはひじ掛けに頬杖をついて、アメリをじっと観察するように見つめていた。


「ふうん。まるでこの先生まれるその王太子のことを、知っているかのような口ぶりですね」


アメリは、瞳を上げた。そして、真正面からケプラーを見つめる。


「はい、知っています。夢の中で、苦しんでいる彼を見ました。私はどうしても、彼のことを救いたいのです」


「なるほどね、未来で待っている哀れな少年を救いたいと。健気なお嬢さんだ」


どこか白けた口調で、ケプラーは言う。


「だが、あなたは愚かだ。その予言の書を書いた占術師の子孫である私が、はいそうですか、とあなたの提案に乗るとお思いだったのですか? 私は、この家系にそれなりの誇りを持っている。貴重な古文書に、手を加えたくはない」


「それを、承知で参りました」






黒曜石に似た瞳が、冷えた眼差しでアメリを見る。


負けるものか、とアメリはケプラーを見返した。


冷静で理知的で、したたかさを秘めたこの男は侮れない。けれども、アメリは何としても、まだこの世には存在しないあの少年を救いたい。


しばらくの沈黙のあと、ケプラーは気味が悪いほど冷静な声を出す。


「では、あなたはその王太子のせいでこの国が滅びてもいいと、おっしゃるのですか?」


「滅んでいいとは思っていません。けれども、その王太子の存在が、この国を亡ぼすことなどないと思っています。運命が、生まれた時から定まっているなどあってはなりません。運命は、自ら切り開くものだと思っています。カイル様が……国王陛下が、そうであったように」


出会った頃のカイルの哀しげな瞳を思い出し、胸の奥がぎゅっとなる。


横暴で、冷酷で、無慈悲。そんな自分で傷ついた心を厳重に覆っても、哀しげな眼差しだけは隠しきれていなかった。

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