時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>

ロイ・ケプラーは暗闇の中で、今日も目の前の水晶玉に集中していた。


アメリにこの先生まれるであろう不幸な王太子の話を聞いた時から、いつもにも増して予知能力は敏感になっていた。


金色の髪をした美しい少年が、真っ暗な空間に横になっている。顔色が悪く、吐く息は細い。


(”見て”は、ならない)


未来が見えても、何も良いことはない。ロイは必死に、垣間見てしまった未来を水晶玉に送り込んでいた。


額からは汗が滴り、床に落ちる。






自分の能力は、他人を不幸にする。未来をズバリ言い当てると人々は混乱し、父親はロイの才能を恐れ出て行った。


占いは、あくまでも占いであるからこそ成り立つものなのだ。未来をはっきり予見する能力など、いらない。


幼いロイは、痛いほどにそれを思い知った。


だから自分の能力を最小限にとどめ、敢えて未来を読まずに、彼のもとを訪れる人々の求める答えを必至に導き出してきた。


そうやって、父親に捨てられてから今に至るまで、無我夢中に占い家業を営んできた。



「は……っ」


最後に気を集中させ、垣間見てしまった未来を全て水晶に送り込んだ。途端にロイの記憶の中から、見えてしまった未来は消えた。何を見たのかも、もう思い出せない。







力失くしたロイは、椅子の背もたれにドスンと背を預けた。


今は何時だろうか? もう、夕刻に迫る時間のような気がする。


アメリは今日も姿を現さなかったなと、ふと考えた。


連日のように邸に赴いていたアメリだったが、三日前からめっきり来なくなっている。


予言の書の改ざんを、ついに諦めたのだろう。









あの古文書の最後の予言は、真実ではない。


未来を予知することの出来るロイは、直感的にそれを感じ取っていた。


どうして優秀な占術師だった先祖が、そんな嘘の予言を後世に残したのかは定かではない。


だが、たとえ嘘の予言でも、ロイは改ざんする気など毛頭なかった。


慈愛に満ち溢れ、誰からも愛されるあの黒髪の令嬢が、苦手だからだ。


エメラルドグリーンの真っ直ぐな瞳に見つめられると、化け物のような能力を持つがゆえに父親に捨てられ、未来が分かるにも関わらずあえて人々にそれを告げず、欺き続けている自分を惨めに感じる。







< 35 / 47 >

この作品をシェア

pagetop