時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
そして、ガラス玉を片手に邸内に引き返そうとする。


けれどもそんなロイを引き留めるかのように、背を向けた彼の腕にアメリが触れた。


他人に触れられたのは、久しぶりだ。ぎくりとして振り返ったロイは、澄んだエメラルドグリーンの瞳に射抜かれ、言葉を失った。


「町で、あなたの噂を聞きました。あなたの恋占いは良く当たると、女性たちはうれしそうに話していましたよ」


不思議だ。この女の声は遠慮がちなのに、地に根づいたような意志の強さを感じる。


「……それが、どうしたというのです? とにかく、お帰りください」


今までにないほどの至近距離だから、アメリの顔がよく見える。艶やかな黒髪に、薄桃色の唇が映える滑らかな白い肌。








(美しい……)


自然と、心の内で呟いていた。途端に居心地の悪さを覚え、ロイは慌ててアメリの手を振りほどく。そして、無理やりに彼女に背を向けた。


「その玉は、”虹色”に染めています。”虹色”に、決まった意味はありません。あなたが感じてください」


アメリの声が、邸の中へと戻って行くロイの背中に投げかけられる。


(ガラス玉など、なんの役に立つ? いったい、どういうつもりだ……)


苛立ちつつ、ロイは玄関の戸をピシャリと閉めた。
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