時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
翌日も、ロイは薄暗い部屋で水晶玉に向かっていた。昨夜、夢の中で”見てしまった”未来を、水晶玉に送り込む。
額には汗が滲み、息が上がる。記憶に刻まれた様々な未来が水晶玉に吸い込まれ、映像となって消えて行く。
――瀕死の、金色の髪の少年。湖の煌めく、青々とした草原。湖畔に佇む、蜂蜜色の髪をした女……。
「は……っ」
全てを水晶玉に送り込んだロイは、倒れるように椅子に背を預けた。
”見えてしまった”未来を消失する作業は、体力を使う。いったいいつまでこんなことをしなければならないのか、いつも考える。
自分の能力は、人を不幸にする。それならばどうして、自分はこんな能力を持って生まれたのだろう? 自分の存在意義とは、何なのか。
力失くしたロイがそんなことを考えていた時、ふいに遠慮がちな声がどこからか聞こえた。
「あの、ぼっちゃま。夕食の支度ができました」
リザが、ドアの隙間から僅かに顔を覗かせている。ノックをしてもロイから返答がなかったから、中の様子を覗いたのだろう。よくあることだ。
「すぐに行く」
答えると、リザはホッとしたような表情を見せた。
そしてその直後、部屋の一点を見つめて「まあ……」と感嘆の声を上げる。
「とても美しい水晶玉ですね。まるで、雨上がりの空のようですわ」
穏やかな微笑とともにそんな言葉を残し、リザはドアの向こうに消えて行った。