時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
その日の午後、アメリは王宮の片隅にある図書室を訪れた。
屈強な木造りの扉を開ければ、瞬く間に古書の匂いに包まれる。
見上げるほどに高い書架が部屋の四隅にぎっしりと敷き詰まっており、さらに奥の奥まで、まるで合わせ鏡の世界のように書架が幾つも並んでいた。
ドーム型の天井に描かれた見事な絵画が、薄暗く湿っぽい室内を見下ろしている。
「アメリ様、どうされたのですか?」
きょろきょろと辺りを見渡していると、背後から声が聞こえた。振り返れば、数冊の本を抱えたアレクが嬉しそうにこちらを見ていた。
アレクは元少年騎士団だったが、カイルに本の知識を見込まれ、いまでは図書館主の手伝いをしている。年は、11歳だと言っていた。おどおどとしているが、屈託のない笑顔と薄茶色の猫ッ毛がかわいらしい少年だ。
「ルドルフさんに会いに来たの。いらっしゃる?」
ルドルフとは、王宮の図書館主のことだ。この王宮の最年長者で、ありとあらゆることを知っていると噂されている。
「ルドルフさんなら、そちらにいらっしゃいますよ」
アレクの視線を辿ったアメリは、図書室の隅のテーブルで書き物をしている老人の姿を見つけた。
「ありがとう、アレク。そういえば、最近小説を書いているんですって?」
これは、カイルから聞いた情報だ。カイルは、この引っ込み思案な少年を特別かわいがっていた。とはいえ、目に見えて仲良くしているわけではない。つっけんどんな物言いで少年と接しているだけなのだが、アメリにはカイルがアレクに親しみを感じているのが分かるのだった。
途端に、アレクは頬を染める。
「……そうなんです」
「どんな本を書いているのか教えてくれないって、カイル様が拗ねていたわよ」
「それは……」
アレクは真っ赤になりながら、視線を彷徨わせた。
屈強な木造りの扉を開ければ、瞬く間に古書の匂いに包まれる。
見上げるほどに高い書架が部屋の四隅にぎっしりと敷き詰まっており、さらに奥の奥まで、まるで合わせ鏡の世界のように書架が幾つも並んでいた。
ドーム型の天井に描かれた見事な絵画が、薄暗く湿っぽい室内を見下ろしている。
「アメリ様、どうされたのですか?」
きょろきょろと辺りを見渡していると、背後から声が聞こえた。振り返れば、数冊の本を抱えたアレクが嬉しそうにこちらを見ていた。
アレクは元少年騎士団だったが、カイルに本の知識を見込まれ、いまでは図書館主の手伝いをしている。年は、11歳だと言っていた。おどおどとしているが、屈託のない笑顔と薄茶色の猫ッ毛がかわいらしい少年だ。
「ルドルフさんに会いに来たの。いらっしゃる?」
ルドルフとは、王宮の図書館主のことだ。この王宮の最年長者で、ありとあらゆることを知っていると噂されている。
「ルドルフさんなら、そちらにいらっしゃいますよ」
アレクの視線を辿ったアメリは、図書室の隅のテーブルで書き物をしている老人の姿を見つけた。
「ありがとう、アレク。そういえば、最近小説を書いているんですって?」
これは、カイルから聞いた情報だ。カイルは、この引っ込み思案な少年を特別かわいがっていた。とはいえ、目に見えて仲良くしているわけではない。つっけんどんな物言いで少年と接しているだけなのだが、アメリにはカイルがアレクに親しみを感じているのが分かるのだった。
途端に、アレクは頬を染める。
「……そうなんです」
「どんな本を書いているのか教えてくれないって、カイル様が拗ねていたわよ」
「それは……」
アレクは真っ赤になりながら、視線を彷徨わせた。