親友だから 【 短編小説 】
不思議には思ったけど、特に気にはしなかった。
由実も気にしていない、というか、そもそも気づいてなさそうだ。
由実と他愛もない話をしていると、バスが信号の向こうに見えてきた。
「あー、来ちゃったねぇバス」
バスに気づき、しゅんとした感じで話を打ち切った由実。
「話してると早いね……。今日もわざわざバス停までありがとね」
「なーに言ってんの!私が少しでも夏樹と一緒にいたいだけ!」
「あはっ、私たちカップルみたいな会話してるね」
「そのへんのカップルより私たちの方がラブラブよぉ!」
「私たちの愛は誰にも負けないもんねっ」
「あったりまえ!!」
あははっと笑い合っているうちに、バスは目の前に到着する。
「じゃあ、また明日」
「うん!また明日ねー!」
私が手を振ると、その何倍にも大きく手を振り返してくれる由実。
それを見て「ふっ」と笑みがこぼれてしまう。
バスに乗り込み、ずっと手を振って見送ろうとしてくれている由実に、私も手を振り続けていた。
……そういえば、あの黒いパーカーの人、バスに乗らないのに何してんだろ。
バス停に着いた時に気になっていた黒いパーカーの男は、ずっと同じ場所でポッケに手を突っ込みながら突っ立っている。
由実に手を振りながらも、バス停の前にいる黒いパーカーの男を気にしていた。
その時だった。