冷酷な王さまは愛し方を知らない
思っていた。
なのに―――――…。
「なぜ、あそこにいたのだ」
体に受けた衝撃。
振り向いた先にいた人物。
苦痛に歪む表情。
崩れ落ちた先の鮮明な赤。
なぜこんなことに。
巻き込むつもりなどなかった。
ただ、どんな娘なのか気になった。
自分のものにしてみたいと願っただけ。
金で得られるものばかりだった自分の周り。
心でさえも金があればどうにでもなった。
ただ、この娘の心だけは違った。
金をひけらかしても、満たされた暮らしを与えても。
首を縦に振ることはなく。
だが、この娘との時間は。
ただただ満たされていた。
今まで感じた事のない温もりの時間。
自分が少しだけ、許されたような――――。
巻き込みたくはなかった。
ここにいれば、この娘を結局巻き込むことになるのか。
この泥沼の世界に。
この娘は、清く美しくあるべきだ。
こんな世界に、いてはいけない。
なぜ、そのことに気づけなかったのだろう。