冷酷な王さまは愛し方を知らない


「あの時のこ…、あれ…?」



一瞬。
本当にたったの一瞬目を反らしただけ。
それなのに、視線を戻した時にはもう彼はいなかった。

音もなく消えてしまった。
あの事件の時の身のこなしといい。
その手のプロの人なんだろう。


バカ正直に答えていただけじゃなかった。
私の意識がそれ逃げ出すチャンスをしっかりと伺っていたんだ。
その隙を、全く逃すことなく捕まえ簡単に姿を消すことができる。



いったい、何者なんだろう。




「おい、ねぇちゃん。お前、さっきの男と知り合いか?」



いきなり腕を掴まれすごまれるように言われる。
ガタイのいい強面の男。



「え…」

「知り合いかって聞いてんだ」

「知り合いというか…、いえ…、顔見知り程度で…」



なにこの男…。
彼、コハクの事を知っていて探している?




「あの男には借りがあるんだ。一度借りを返さねぇと気がすまねぇ!」




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