うぶ婚~一途な副社長からの溺愛がとまりません~
「騙すもなにも、私はただ食事をしようと誘っただけだ。井上くんがいてもいいだろう?」

けれど社長の方が一枚に二枚も上手で、副社長は唇を噛みしめた。

「失礼します」

そして次の瞬間、背中を向け立ち去ろうとする彼に、私は急いで立ち上がり叫ぶように言った。

「待ってください! 副社長とちゃんとお話がしたく、本日は私が社長にお願いしたんです!」

大きな私の声に彼は足を止め、ゆっくりと振り返る。

「話しもなにも……悪いが今はまだなにも聞きたくない」

顔を伏せ、声を震わせる副社長に私は必死に言葉を並べた。

「いいえ、聞いていただかなくては困ります。副社長は誤解なさっているのですから。ですからお願いします。帰らないでください」

懇願すると、副社長は大きく瞳を揺らせながら私を見つめてきた。

「お願いします、副社長」

もう一度お願いをすると、彼は少しの時間考えた後、「わかった」と呟いた。

よかった、これで彼と話ができる。
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