うぶ婚~一途な副社長からの溺愛がとまりません~
「あ、払います」

奢ってもらうわけにはいかない。そう思い申し出たものの、冷たい目が向けられた。

「けっこうです。……あなたに奢られたくないから」

そんな――。

そう言うと、彼女は会計を済ませ去っていった。

ひとり残された私は、朱美さんが置いていった連絡先が書かれたメモ紙を茫然と眺める。

ずっとずっと思い悩んでいた。私が廉二郎さんのそばにいていいのか。彼を支える力が私にあるのかを。

秘書課に勤めていると、一般社員よりも会社の経営状態に関して情報が入ってくる。

朱美さんの言う通り、このままではうちの会社の経営状態は傾く一方だと思う。再建を図るには援助を受けるべきだし、そうする道しかない。

社員として、そして社長秘書として、廉二郎さんに援助を受けるように言うべき。

けれど彼の恋人としては、言えるわけがなかった。

まだ廉二郎さんとは付き合って日が浅いけれど、私にとって廉二郎さんはなくてはならない存在になっているから。

彼との未来を思い描いていたからこそ、一緒に過ごせない未来など考えたくなかった。

じゃあ私はいったいどうすればいいんだろう。その答えは出るはずもなかった。
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