God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
45だよっ!!!
打越会長名義で指示が来る。
実際の相手は、いつかの書記、片桐だ。
これまでの報告、急な変更も含めて添付ファイルをまとめて送りつけたら、『さすが早いですね』と来た。抜け抜けとよくも言えたもんだ。このド変態!
生徒会有志は1度もやって来ない。
あんな事の後だ。どの面下げて、だろう。
一方、見学御一行は続々とやってくる。
彼らはスマホを片手に、今日も無邪気に立ち回る。
色違いの石畳をぴょんぴょん跳んで、「こうすると○○○が勝手に反応して、あのコが現れる」「マジかよ」「おまえ天才?」男子が列をなしてそこらじゅうを飛び回る。
一般生徒に悪意は無いと分かっているが、ここはUSJじゃない。
俺自身の事情で言えば、「トイレは何処ですか?」と、何でも無い事を訊かれても、これは何かの罠じゃないかと警戒した。
本当にトイレか?何かの隠語か?挙げ句の果て、態度が悪いとか、超ウケる~とか、向こうの奴らにネタを提供するのも腹立たしい。
真面目に取り合うのも腹立たしいと、見学団はそっちのけ。
この所、俺は部活に出ている。
今日は体育館を独占だ!
屋内がやけに静かだと思ったら、バスケ部がどこかに遠征中らしい。
俺は神様の存在を信じる。雨でも雪でも、やって来やがれ。
軽くランニングした後、ノリを相手にパスを繰り出した。
頭の指令と体の動きが、微妙にズレているような……。生徒会に関わるようになってから、ろくに練習していない。出ても1時間程。さすがに体は鈍る。
これで10キロ、走るのか……受験生には拷問が過ぎる。
そこへ、キャプテン工藤がやってきた。若干、後輩達に緊張が走る。
こういう時、思うのだ。
〝議長〟という肩書きには、僅かな威厳もへったくれも無い。
「あっちの2年。ノリとおまえで入ってよ」
そう言われて、ノリが2年生を勝手にチーム分け。
軽いパス回しから、スパイク、レシーブ……ウォーミング・アップには少々重いノルマをこなす。俺はひたすらシゴキ役に甘んじる。
チームが走り回る中、とにかく死角を狙って速攻を叩いた。
「そろそろサーブカットすっか」
工藤の指示で、1年生はボールカゴを滑らせた。
球拾いが右往左往する中、黒川は相変わらずというか、定期的に巡ってくるサーブ練習を無難にこなす。というか、適当に叩きたいだけ叩いて、後は後輩をイジっている。
「おまえら、ジャンプサーブなんか、やりたいの?」
「やりたいっす。黒川先輩、お手本見せてくださいよ」
「あんなのイキった奴がやる事だし。失敗したら目も当てらんねーわ」
その通りだ。失敗してドン引きされる事を怖れて、天井サーブに甘んじているのでなければ拍手してやってもいい。
下から上に叩く天井サーブ(アンダーとも言う)を黒川は得意とする。
というか、黒川はその高さばかりを誇って、「球は、死角領域を狙う。敵はボールを見失う。オレ様は、これを極める」と斜めに構えていた。
「アンダーは、ちょっと間違うと相手チャンスになるからなぁ。よっぽどコントロールが良くないと戦力になりづらいぞ」とOBからアドバイスされても、全く聞く耳を持たない。
パス。レシーブ。速攻。どれを取っても、ただただ〝無難〟。決して下手ではないが、どこまでもボールに喰らいつくという意気込みに欠ける。
黒川の口を突いて出る台詞は、
「週末来たーーー!オレ様の放課後がやっと来るぜ。部活、あと1時間もあんのかよ。ちょっと休憩。つーか足痛ぇ。帰るワ」
チームのモチベーションは、ダダ下がり。
今も「今年の夏が最後か」とか言ってる。
黒川は、決して俺達の夏を惜しんでいるのではない。やれやれ、やっと終わる、といった感じで、その先の夏休みの予定に意識は飛んでいる。
「次のエースは石原、ブロックは小田切かな」
見る目だけはある、と感心した。しかし、まだ3年の夏が始まってもいないのに、もう次世代の話とは……どこまでも終わってるヤツだな。
次の日の事。
5組の教室では「こないだの模擬、返ってきたって」と女子が触れ回る。
周りは一斉に立ち上がった。
それぞれが、仲間に盗み見される前に、先生の所に取りに行こうと躍起になる。ノリがやって来て、遠慮がちに桂木の隣に座った。
「洋士って、第一志望の推薦取れた?」
「いや、まだわからないけど」
吉森先生には、個人面談で地元の私立大学に行くと意思を伝えてある。
地元なので推薦枠が多い事から、毎年、双浜高からはかなりの生徒がその大学へ流れる。しかし、そこに限らずだが、各大学の推薦枠は毎年取り合いだ。
斜め前の黒川が、「沢村は成績良いんだし、生徒会やって内申もいいんだから、一般でも行けるだろ。推薦なんかポンコツに譲れよ」と、こちらを振り返りもせずに言う。
少々ムッときたが、確かにそういう面もあるかもしれない。
進路指導は、殺到する推薦の振り分けに苦労していると聞くし。
「そういえば、黒川くんって、どこ受けるの?」と桂木が聞いたらば、
「まだ決めてねーよ」
この時期にきても?
わざと困る生徒になって吉森先生の気を引くつもりか。幼稚が過ぎる。そうやって、どんどん本命から嫌がられる。先生の苦労を思うと、ため息が出た。
そこへ右川がやってきた。席替えで、今は黒川の前だ。
そこへ永田が、ガラガラガラ!と現れる。
黒川は、「来た来た。ポンコツきょうだい」と口先で笑った。
「お薬増やそうか。ブラザーK」と、永田と微妙に距離を取る右川とは対照的に、「だったらオレ様がアニキだかんな。ブラザーK」と永田はノリノリで(?)、右川の頭に肘を立てる。
「おらチビ。おまえどこ受けんだよッ。ママとお受験かよッ!」
「うるせーな。あたしは就職だもん。混ぜるな危険」
「就職って、どこだよッ?」
「今から決めるけど。一応のライフプランは頭にあるんだよね~」
「胡散臭ぇ」と黒川が横槍を入れた。
「まともに行く気がしねーな」
黒川と、初めて心から一致を見る。
「ところで、ひらめきの黒ちゃんに聞きたいんですけど」
やけに右川が改まると思ったら、
「〝45〟って聞いて、なんかピンと来ない?」
俺は2人のやりとりに意識を傾けた。
「知らないね」
「つーか、全然考えてないじゃん」
「ひらめきっていうのは、わざわざ考えて出るもんじゃねーだろ」
「たまには別の脳みそ使えよ。ブラザーK。おらおらおら♪」
「おまえって、まるでチンピラだよな」
俺は思わず吹き出した。密かに聞いていたのは俺だけじゃないらしい。
ノリも桂木も、その前に居た阿木も、みんなが笑う。
「あ?なに?」
右川は周りを見回して、「もう、何?はぁ?チンピラとか、女子に言う?」と黒川に絡んで、悔しそうに地団駄を踏んだ。
ポコポコと、猫パンチを黒川に喰らわす。
うりゃッ!チンピラ!チンピラ!と、永田にまで突かれて、「あんたにだけは言われたくないよっ!」と返り討ちで八つ当たりした。
付属の煩わしさ、受験の息苦しさも忘れて、久しぶりに気持ち良く笑えた。
こういう事があるから、黒川は侮れない。
そこへ、
「なんか最近、黒川くんと仲良いわよね。右川さん」と、阿木がわざわざ俺に知らせてくる。
確か、桂木もそんな疑惑を抱いていた。
そんな訳無い。現状、右川は山下さん一途だ。
阿木は、意味ありげに、黒川と俺を交互に眺める。
最近は、黒川と。
それなら昔は。
……とはつまり、阿木はいつか覗いた光景を、まだ忘れてくれない。
「阿木は何処受けるの?誰かを追いかけて、そこだけが本命?」
永田さんの存在を匂わせてカク乱した。
「そこはまぁ。ていうか、他にも幾つか……」と阿木は謎めく。
阿木が滑り止め&記念受験にどこら辺を決めているのか。
気になると言えば気になる。
「幾つかって?どこ?」
本気で知りたいと思ったが、それは煙に巻かれた。
実際の相手は、いつかの書記、片桐だ。
これまでの報告、急な変更も含めて添付ファイルをまとめて送りつけたら、『さすが早いですね』と来た。抜け抜けとよくも言えたもんだ。このド変態!
生徒会有志は1度もやって来ない。
あんな事の後だ。どの面下げて、だろう。
一方、見学御一行は続々とやってくる。
彼らはスマホを片手に、今日も無邪気に立ち回る。
色違いの石畳をぴょんぴょん跳んで、「こうすると○○○が勝手に反応して、あのコが現れる」「マジかよ」「おまえ天才?」男子が列をなしてそこらじゅうを飛び回る。
一般生徒に悪意は無いと分かっているが、ここはUSJじゃない。
俺自身の事情で言えば、「トイレは何処ですか?」と、何でも無い事を訊かれても、これは何かの罠じゃないかと警戒した。
本当にトイレか?何かの隠語か?挙げ句の果て、態度が悪いとか、超ウケる~とか、向こうの奴らにネタを提供するのも腹立たしい。
真面目に取り合うのも腹立たしいと、見学団はそっちのけ。
この所、俺は部活に出ている。
今日は体育館を独占だ!
屋内がやけに静かだと思ったら、バスケ部がどこかに遠征中らしい。
俺は神様の存在を信じる。雨でも雪でも、やって来やがれ。
軽くランニングした後、ノリを相手にパスを繰り出した。
頭の指令と体の動きが、微妙にズレているような……。生徒会に関わるようになってから、ろくに練習していない。出ても1時間程。さすがに体は鈍る。
これで10キロ、走るのか……受験生には拷問が過ぎる。
そこへ、キャプテン工藤がやってきた。若干、後輩達に緊張が走る。
こういう時、思うのだ。
〝議長〟という肩書きには、僅かな威厳もへったくれも無い。
「あっちの2年。ノリとおまえで入ってよ」
そう言われて、ノリが2年生を勝手にチーム分け。
軽いパス回しから、スパイク、レシーブ……ウォーミング・アップには少々重いノルマをこなす。俺はひたすらシゴキ役に甘んじる。
チームが走り回る中、とにかく死角を狙って速攻を叩いた。
「そろそろサーブカットすっか」
工藤の指示で、1年生はボールカゴを滑らせた。
球拾いが右往左往する中、黒川は相変わらずというか、定期的に巡ってくるサーブ練習を無難にこなす。というか、適当に叩きたいだけ叩いて、後は後輩をイジっている。
「おまえら、ジャンプサーブなんか、やりたいの?」
「やりたいっす。黒川先輩、お手本見せてくださいよ」
「あんなのイキった奴がやる事だし。失敗したら目も当てらんねーわ」
その通りだ。失敗してドン引きされる事を怖れて、天井サーブに甘んじているのでなければ拍手してやってもいい。
下から上に叩く天井サーブ(アンダーとも言う)を黒川は得意とする。
というか、黒川はその高さばかりを誇って、「球は、死角領域を狙う。敵はボールを見失う。オレ様は、これを極める」と斜めに構えていた。
「アンダーは、ちょっと間違うと相手チャンスになるからなぁ。よっぽどコントロールが良くないと戦力になりづらいぞ」とOBからアドバイスされても、全く聞く耳を持たない。
パス。レシーブ。速攻。どれを取っても、ただただ〝無難〟。決して下手ではないが、どこまでもボールに喰らいつくという意気込みに欠ける。
黒川の口を突いて出る台詞は、
「週末来たーーー!オレ様の放課後がやっと来るぜ。部活、あと1時間もあんのかよ。ちょっと休憩。つーか足痛ぇ。帰るワ」
チームのモチベーションは、ダダ下がり。
今も「今年の夏が最後か」とか言ってる。
黒川は、決して俺達の夏を惜しんでいるのではない。やれやれ、やっと終わる、といった感じで、その先の夏休みの予定に意識は飛んでいる。
「次のエースは石原、ブロックは小田切かな」
見る目だけはある、と感心した。しかし、まだ3年の夏が始まってもいないのに、もう次世代の話とは……どこまでも終わってるヤツだな。
次の日の事。
5組の教室では「こないだの模擬、返ってきたって」と女子が触れ回る。
周りは一斉に立ち上がった。
それぞれが、仲間に盗み見される前に、先生の所に取りに行こうと躍起になる。ノリがやって来て、遠慮がちに桂木の隣に座った。
「洋士って、第一志望の推薦取れた?」
「いや、まだわからないけど」
吉森先生には、個人面談で地元の私立大学に行くと意思を伝えてある。
地元なので推薦枠が多い事から、毎年、双浜高からはかなりの生徒がその大学へ流れる。しかし、そこに限らずだが、各大学の推薦枠は毎年取り合いだ。
斜め前の黒川が、「沢村は成績良いんだし、生徒会やって内申もいいんだから、一般でも行けるだろ。推薦なんかポンコツに譲れよ」と、こちらを振り返りもせずに言う。
少々ムッときたが、確かにそういう面もあるかもしれない。
進路指導は、殺到する推薦の振り分けに苦労していると聞くし。
「そういえば、黒川くんって、どこ受けるの?」と桂木が聞いたらば、
「まだ決めてねーよ」
この時期にきても?
わざと困る生徒になって吉森先生の気を引くつもりか。幼稚が過ぎる。そうやって、どんどん本命から嫌がられる。先生の苦労を思うと、ため息が出た。
そこへ右川がやってきた。席替えで、今は黒川の前だ。
そこへ永田が、ガラガラガラ!と現れる。
黒川は、「来た来た。ポンコツきょうだい」と口先で笑った。
「お薬増やそうか。ブラザーK」と、永田と微妙に距離を取る右川とは対照的に、「だったらオレ様がアニキだかんな。ブラザーK」と永田はノリノリで(?)、右川の頭に肘を立てる。
「おらチビ。おまえどこ受けんだよッ。ママとお受験かよッ!」
「うるせーな。あたしは就職だもん。混ぜるな危険」
「就職って、どこだよッ?」
「今から決めるけど。一応のライフプランは頭にあるんだよね~」
「胡散臭ぇ」と黒川が横槍を入れた。
「まともに行く気がしねーな」
黒川と、初めて心から一致を見る。
「ところで、ひらめきの黒ちゃんに聞きたいんですけど」
やけに右川が改まると思ったら、
「〝45〟って聞いて、なんかピンと来ない?」
俺は2人のやりとりに意識を傾けた。
「知らないね」
「つーか、全然考えてないじゃん」
「ひらめきっていうのは、わざわざ考えて出るもんじゃねーだろ」
「たまには別の脳みそ使えよ。ブラザーK。おらおらおら♪」
「おまえって、まるでチンピラだよな」
俺は思わず吹き出した。密かに聞いていたのは俺だけじゃないらしい。
ノリも桂木も、その前に居た阿木も、みんなが笑う。
「あ?なに?」
右川は周りを見回して、「もう、何?はぁ?チンピラとか、女子に言う?」と黒川に絡んで、悔しそうに地団駄を踏んだ。
ポコポコと、猫パンチを黒川に喰らわす。
うりゃッ!チンピラ!チンピラ!と、永田にまで突かれて、「あんたにだけは言われたくないよっ!」と返り討ちで八つ当たりした。
付属の煩わしさ、受験の息苦しさも忘れて、久しぶりに気持ち良く笑えた。
こういう事があるから、黒川は侮れない。
そこへ、
「なんか最近、黒川くんと仲良いわよね。右川さん」と、阿木がわざわざ俺に知らせてくる。
確か、桂木もそんな疑惑を抱いていた。
そんな訳無い。現状、右川は山下さん一途だ。
阿木は、意味ありげに、黒川と俺を交互に眺める。
最近は、黒川と。
それなら昔は。
……とはつまり、阿木はいつか覗いた光景を、まだ忘れてくれない。
「阿木は何処受けるの?誰かを追いかけて、そこだけが本命?」
永田さんの存在を匂わせてカク乱した。
「そこはまぁ。ていうか、他にも幾つか……」と阿木は謎めく。
阿木が滑り止め&記念受験にどこら辺を決めているのか。
気になると言えば気になる。
「幾つかって?どこ?」
本気で知りたいと思ったが、それは煙に巻かれた。