God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
片桐の方が、あったような
何故だ!?
後輩女子と世間話の、遠足気分のマラソンだったはずだ。
何故、後半を全力疾走する羽目になるのか。
体力ゲージは、もう限界なのに。
付属男子2体の壁に迫られて、これはもう逃げるしかないと、俺達は全力で飛び出した。
「もぉッ!折角うまくいってたのに!あんたのせいで台無しだよっ!」
「何だよその言い方。せっかく心配して……来てやったのに」
「ヘタレは来んな!ポンコツは呼んでない!クソ議長は邪魔!」
何て言い草だろう。
「何やってんの!早く!」と右川は、復路とは違う方向に俺を引っ張り、「これを着て!」と一体誰から盗んだのか分からない付属の濃紺ジャージを、俺の体に被せた。
右川自身も、いつのまにか同じジャージを被っている。
サイズが違いすぎて、さながら二人羽織……もう、ウケる元気は無い。
俺達はそのまま一緒に走り出した。往路と復路が交差する地点で、遅れて今頃折り返しにやってきた、浅枝ダンゴ軍団に突っ込む。
「どこだッ!」
「逃がすな!」
「おまえら邪魔だ!」
そんな叫び声を真横に、斜めに、上下に聞きながら、声の主が遠ざかるまで濃紺に揉まれ、足早で駆け抜けた。
その間、俺は右川に頭を雑に扱われ、右川のジャージの中に隠されて。
幾人もの赤いジャージが通り過ぎた。
濃紺も、紺も、青色も、もうどれが誰だか分からない。
俺は中腰、右川に抱えられながら、そのまましばらく走った。
今は、どの辺りだろう。
このジャージは、やけに好い匂いがする。
たまに、右川と骨同士がぶつかって、それは片桐とも永田とも違った。
胸の辺りは……片桐の方が、あったような。
突如、右川の足が止まる。
「ド変態!あんた何いい気になってんのっ!」
突然、右川に突き飛ばされた。
途端に俺は方向を見失い、すぐさま後ろにやってきた別の団体に揉みくちゃにされ、付属男子の1人になり済ましたまま、また折り返し地点まで戻る羽目になり……どんだけ往復すんだよっ!?
揉まれるままに、彷徨い、走って、転んで……ゴール地点ではヘトヘト。
結果、恐らく俺だけが10キロ以上を走った。
500円のクオカード位じゃ許せる気がしない。
「何、オレら優勝!?」
ぴょおおおおおお~!と、永田は大喜びだった。そんな訳無い。女子に惑わされず、真面目に取り組んだ付属男子は、それなりの結果を出していた。
ま、いい。
勝ち負けの結果は、どうでもよかった。
付属への怒りもどこかに飛んでいく。
それだけ、クタクタ。
いつのまにか松倉妹が傍にやって来て、「すみませんでした。ごめんなさい」と泣いて謝る。
「あたしじゃー止め切れないねー。さすがだねーやるねー」と姉の方に、罪の意識は無い。
怒ってはいない。
悔しくはない。
例え松倉姉の手に、高機能搭載のヘッドフォンが握られていようとも。
クタクタで良かった。
クタクタが、全ての思考を麻痺させる。
正直、あれだけで何事もなく終わってホッとしている。
ボクシングなんて、反則だろ。
圧倒的な強さの前に、正義感も、怒りの感情も、放り出された。
ただただ、逃げた。
松倉妹が「先輩、握手してください」と恥ずかしそうに手を差し出す。
「私、今日の事、絶対忘れません。右川さんに言われてですけど、本当に楽しかったです」
確かに、こいつの顔は忘れないだろうな。
握手だけでいいのか?と思いながら、ゴミよりはましか、と。
俺は、その手を強く握り返した。



嵐は去った。
どんよりとした6月の本番。外はさっそく大雨である。
雨が降って蒸し暑い。かと思えば、急に冷えてくる。
上着を着たり取ったりで忙しい。ネクタイは元から外した。
生徒会室。
寄ると触ると「面白かったですね」と口々に言う。
後日、付属に出向いて挨拶という名の謝罪があった。
……ですよね。
「双浜では、ルールとマナーの扱いはどうなってるんでしょうか」と、付属側の先生に遠まわしに嫌味を言われたとかで、「あんた達のせいで婚期が遅れる」と吉森先生には睨まれた。(叱られたに近い。ていうか、八つ当たり?)
右川は、「段取りをよく知らなくてぇ~♪」と、しらばっくれた。
「沢村くんがいて、どうして」と責められたので、
「俺は、ただの議長ですから」
まさか自分からこんな言い訳をするとは、考えてもいなかった。
試合は、およそスムーズに流れたが、そこはまぁ色々あった。
女子がおるだけいいやんけ……1日中、付属は、その一言に尽きた。
試合の間中、「偏差値低いくせに、女子と仲良くやってんじゃねーよ」という声をよく耳にした。女子への鬱憤、ちょっとでも愚痴ろうものなら、
「なに文句言ってんの。女子が居るだけいいじゃんか」と、逆に敵対心を剥き出しにされる。女子は大変……という共感は1度も得られずに終わった。
だが女子は違う。
「こっちの男子は気難しくて大変でさぁ」とか言おうものなら、僕らは違うとばかりに付属のその優しさは双浜女子のプライドをいたく満足させた。
唯一勝利を感じさせるのが、獲得賞品の数々である。
付属側が惜しいとうなるほど、豪華な品々。
それも、配り先は、ほとんど女子ばかり。
「欲しいな」は、何も付属男子に限って適用されるものではなかった。
双浜男子も、また然り。
現状。
付属の全てを奪ってやる!という悪魔的な女子はごく1部で、おおよそは賞品を仲良く山分け。「ちょうどいいや。貰ったこれでマック行かね?」とばかりに、あちこちで即席カップルが誕生。超巨大合コン会場♪と右川の言った通り。
……ダレトク?
あの時よぎった雑音は、今の結果を反映している。
女子は、フ抜けた付属男子の賞品を横取り。
理不尽な試合展開に、双浜男子はイラつくだけ。愉快なのは、女子だけ。
結果、双浜男子だけが負け通し、賞品も無く、プライドがずたずた、という屈辱の結末を迎えた。黒川じゃないが、男って哀しいな。
こうなってくると、双浜女子が日頃の鬱憤を晴らすために計画された作戦じゃないか、と右川に恨み言の1つも言いたくなる。
お互いの生徒の反応としては、「来年またやりたい!絶対!」と超ノリノリの集団と、「もう要らね。お腹一杯」と顔色の悪い集団にパツンと別れた。
恐らく、今回をきっかけに異性と仲良くなれたかどうかの違いで、結果だけを見ると、去年の陽成学院と大差ない気がする。
唯一、周りに影響される事なく、実力で勝利を勝ち取ったのが、双浜高・野球メンバーだった。
右川推しの坊主頭が居る。見る目はあるようだ。認めよう。
俺の事情も、一様の決着を見た。
「45とは、金輪際やりたくねーよ!」
会計の赤野が、仲間に当り散らすのを見て、腹で笑った。
それだけ。
俺の手許には、賞品は何一つ無い。
唯一貰ったクオカードは……ゴミより全然好いと思って、握手と共に、松倉妹にやった。あの後、先を争うように付属男子が女子に群がっていて、松倉妹が一体何をいくつ手に入れたのかは、押して知るべし。
とにかく、これで本当にすべてが終わった。
あれ?
「そう言えば、真木は?」
大会中、1度も姿を見掛けなかった。
まさか、吹奏楽部の意向に連動して、不参加に従ったのか。
浅枝は、鏡を覗きながら、
「真木くんは、準備体操で捻挫です。ずっと保健室に居ましたよ」
あ、そ。
やれやれ。

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