God bless you!~第9話「その付属と、なんちゃって」・・・合同スポーツ大会
泥沼恋愛事情
「今日も来てるね」
放課後。
桂木が、ぐったり疲れた様子で、生徒会室に来た。
合同大会開催を言い渡されてから、およそ一週間。
あれきり、打越会長たちは1度も来ない。
その代わりと言っては何だが、他の付属生徒がマメに双浜にやって来る。
放課後は入れ替わり立ち替わり、毎日ゾロゾロと。
今日も、浅枝が案内役を買って出ている。
すれ違いざま、
「俺はサヤカちゃん」「俺はカナちゃん」「そこはルナちゃんだろ」「ケモナーは、そこかーっ!」「いや、あの子、絶対俺のこと好きだし。後は俺次第っつーか」「分かった分かった。今は大人しくフリスクを喰らえ」
他校を肴に内輪ウケ。無邪気に話が弾む。
こういう事でもないと他校を見る機会は……というか、女子を眺める機会は無いに等しいのか。単なる物珍しさと興味だろう。
「付属の子って、みんながみんな金持ちなのかな」
ほいと、桂木がアメを寄越した。
有り難く貰って、「そうかもな」と口に放り込む。
不意に、初日に打越会長がしていた腕時計の事が頭をかすめた。
「今日来た子の、クロムハーツ。5万はするよね」
「何それ」
「首に架かってたでしょ。ペンダント」
そんな物の存在すら気付かなかったが、金額には驚いた。ナイキのスニーカーは限定物だった、香水は何とやら(?)だった、と桂木は次々と披露する。
詳しすぎる桂木に軽く驚いて……ていうか多分、俺が疎いんだよな。
「見学って言うけど、あんまりマジメに見てる感じが無いんだよね。遊びに来てる感じ」
「てゆうか、そろそろ、あっちの……話の出来るヤツって来ないのかな」
打ち合わせと称して生徒会室に来る生徒は、皆無だ。
「それって打越会長たちって事なんじゃないの?」
「生徒会だけで全部世話する訳にいかないだろ。当日マラソンで無理だし」
「つまり実行委員か。そんな話聞かないね」
赤野が1度資料を渡してきた以外、交渉はほとんどメールだけ。
開催は来週に迫るというのに、付属生徒が到着してからの流れとか、段取りとか、まだ何にも決まっていない。
こちらから言いっ放しで、そのまんま。あれでOKという事なのか。
「どうなってんのかな」
そこへ、阿木と真木が入ってきた。
「付属の選手分は、なんとか確保してきました。全部の部屋に鍵付きです」
選手用の更衣室に部室を借りたいと、該当団体に交渉してきたらしい。
「こっちの女子が覗かなきゃいいけどね」
口先で笑った。一時の、やっと笑える余裕と言えるかもしれない。
「そういえば右川って、今何やってる?どこに居んの?」
「帰ったわよ」
またか。
「ちょっと誰か、右川の携帯。呼び出して」
「え、沢村、知らないの?」
「……知らないよ」
てゆうか。
俺が当然知っていると言わんばかりの桂木の反応に、純粋に驚くよ。
あいつは最近スマホを買い換えた。それで以前のアドレスは無効となった。
よって、知らない。
そう言えば昔、俺はメルアドを右川のスマホに強制登録させられた事があったが、それが消されていない限り、こっちのアドレスは今もあいつのスマホに残っている筈である。
俺のスマホは、何度か奇妙なメールマガジンを着信した後、すぐに水没。
お陰で、通算スマホ3台目。
思い起こせば、1台目も2台目も、全て右川のせいで壊れている。
弁償してくれた事も無ければ、謝罪すら、ただの1度も無い。(無い!)
「一応メールしてみるけど」
阿木が何やら打ち込んだ後、すぐに返信が来たらしい。
「眠い。ダルい。じゃ、帰るね……メール通りお伝えしたわ」
チッと、思わず舌打ちが出た。
「緊急事態。戻れ、走れ、仕事しろ……そう送って!」
あいつに関わると、どんどんガラが悪くなる。
不意に、「なんか怖いんですよ、僕」と真木が呟いた。
「俺が?」
いいえいいえ、と真木が脅えながら首を振る。(何だ?その目は)
「こないだ執行部の人達が来たじゃないですか。あの最初の日です。僕、あの赤野って会計にずっと睨まれて……その後も来てましたよね?目が合ったと思ったらずっと睨まれて」
「まーだ言ってる」と、桂木は溜息をついた。
「気のせいでしょ」と、スマホをイジリならが、阿木も取りなす。
「でもでも、沢村先輩も睨まれてましたよね?あん時」
同意を求められた所で、俺は首を傾げた。
「別に、そうは思わなかったけど」
赤野とは、あの後、親しく話も出来たし。
多分、睨まれていたのは俺らじゃなくて、フザけた態度の右川会長の方だ。
それを言うと、「そうかもしれないね。あれじゃーね」と桂木が、周りに飴を配り始める。
「怖いと言えば」と、その飴を口に放り込んで、阿木は何やら考え込むと、
「今日来てた中で、さっきの3人は明らかにおかしいわよね。イカれてるっていうか。案内する浅枝さんを取り合うっていうか、そんな言い争いを結構してるわよ」
そう!そうなんですっ!と、真木が立ち上がった。
「浅枝さんが僕とちょっと話してるじゃないですか。すると他の男子の目が、もう怖いんですよ。3人どころか、そこらへんが皆一斉に」
そこは、まぁ。
一部に、そういうライバル視が有ってもおかしくはない。
「……大丈夫かしらね」
「浅枝は平気だろ」
女子だし。
ある意味、モテ期が到来。
男子高からして、女子が珍しいという事は想定できる。
そういう男子側の事情は男子側で勝手に盛り上がってもらうとして、付属が男子同士でケンカになろうがどうなろうが、だ。
浅枝に危害が及ぶ事は考えにくい。誰か他の男子が身を挺して庇ってくれる筈。そいつと今カレの石原が一触即発でどうなろうと(それは俺が釘を差しておくが)、いまそんな心配をしている余裕はない。
更衣室、競技場、印を付けた校舎の見取り図……今日中に用意して、そいつらに渡しておかなければの作業が山ほどあった。
浅枝のご案内は、それまでの時間稼ぎといったところ。
せいぜい引っ張ってくれ。
「私達は途中の準備に戻るわね。桂木さん、女子バスケの件で永田くんが呼んでた」
桂木は、「はいはい」と面倒くさそうに受け取って、俺に向けて軽く手を上げてみせると、阿木たちと一緒に出て行った。
結果、俺1人になった。
急に静かになる。そして、心なしか落ち着く。
思い出したようにアクエリアスをガブ飲み。
うっかり飴も一緒になって飲みこんでしまう。
真木が居るとはいえ、女子ばかりに囲まれた、この生徒会。
いちいち訊かれたそれぞれに返事をするだけで、妙に疲れる。
1つ1つの結論を、俺に丸投げしていると思うのは気のせいだろうか。
頼られていると思えば、悪い事ではないけど……これが、やたら疲れる。
勉強していて頭が疲れるのとはワケが違った。ごっそり体力を奪われる。
疲労感が激しい。
そこへいくと付属は男子高。どんなに穏やかで楽だろうな。あの打越会長のもとで動けたら、今ほどの疲れは感じない気がする。俺は議長でもいい。
右川のヤツはまだ現れない。
すっかり家まで帰ってしまったのか。そこまでの時間は無いはずだけど。
その時、生徒会室のドアが勢いよく開いた。
放課後。
桂木が、ぐったり疲れた様子で、生徒会室に来た。
合同大会開催を言い渡されてから、およそ一週間。
あれきり、打越会長たちは1度も来ない。
その代わりと言っては何だが、他の付属生徒がマメに双浜にやって来る。
放課後は入れ替わり立ち替わり、毎日ゾロゾロと。
今日も、浅枝が案内役を買って出ている。
すれ違いざま、
「俺はサヤカちゃん」「俺はカナちゃん」「そこはルナちゃんだろ」「ケモナーは、そこかーっ!」「いや、あの子、絶対俺のこと好きだし。後は俺次第っつーか」「分かった分かった。今は大人しくフリスクを喰らえ」
他校を肴に内輪ウケ。無邪気に話が弾む。
こういう事でもないと他校を見る機会は……というか、女子を眺める機会は無いに等しいのか。単なる物珍しさと興味だろう。
「付属の子って、みんながみんな金持ちなのかな」
ほいと、桂木がアメを寄越した。
有り難く貰って、「そうかもな」と口に放り込む。
不意に、初日に打越会長がしていた腕時計の事が頭をかすめた。
「今日来た子の、クロムハーツ。5万はするよね」
「何それ」
「首に架かってたでしょ。ペンダント」
そんな物の存在すら気付かなかったが、金額には驚いた。ナイキのスニーカーは限定物だった、香水は何とやら(?)だった、と桂木は次々と披露する。
詳しすぎる桂木に軽く驚いて……ていうか多分、俺が疎いんだよな。
「見学って言うけど、あんまりマジメに見てる感じが無いんだよね。遊びに来てる感じ」
「てゆうか、そろそろ、あっちの……話の出来るヤツって来ないのかな」
打ち合わせと称して生徒会室に来る生徒は、皆無だ。
「それって打越会長たちって事なんじゃないの?」
「生徒会だけで全部世話する訳にいかないだろ。当日マラソンで無理だし」
「つまり実行委員か。そんな話聞かないね」
赤野が1度資料を渡してきた以外、交渉はほとんどメールだけ。
開催は来週に迫るというのに、付属生徒が到着してからの流れとか、段取りとか、まだ何にも決まっていない。
こちらから言いっ放しで、そのまんま。あれでOKという事なのか。
「どうなってんのかな」
そこへ、阿木と真木が入ってきた。
「付属の選手分は、なんとか確保してきました。全部の部屋に鍵付きです」
選手用の更衣室に部室を借りたいと、該当団体に交渉してきたらしい。
「こっちの女子が覗かなきゃいいけどね」
口先で笑った。一時の、やっと笑える余裕と言えるかもしれない。
「そういえば右川って、今何やってる?どこに居んの?」
「帰ったわよ」
またか。
「ちょっと誰か、右川の携帯。呼び出して」
「え、沢村、知らないの?」
「……知らないよ」
てゆうか。
俺が当然知っていると言わんばかりの桂木の反応に、純粋に驚くよ。
あいつは最近スマホを買い換えた。それで以前のアドレスは無効となった。
よって、知らない。
そう言えば昔、俺はメルアドを右川のスマホに強制登録させられた事があったが、それが消されていない限り、こっちのアドレスは今もあいつのスマホに残っている筈である。
俺のスマホは、何度か奇妙なメールマガジンを着信した後、すぐに水没。
お陰で、通算スマホ3台目。
思い起こせば、1台目も2台目も、全て右川のせいで壊れている。
弁償してくれた事も無ければ、謝罪すら、ただの1度も無い。(無い!)
「一応メールしてみるけど」
阿木が何やら打ち込んだ後、すぐに返信が来たらしい。
「眠い。ダルい。じゃ、帰るね……メール通りお伝えしたわ」
チッと、思わず舌打ちが出た。
「緊急事態。戻れ、走れ、仕事しろ……そう送って!」
あいつに関わると、どんどんガラが悪くなる。
不意に、「なんか怖いんですよ、僕」と真木が呟いた。
「俺が?」
いいえいいえ、と真木が脅えながら首を振る。(何だ?その目は)
「こないだ執行部の人達が来たじゃないですか。あの最初の日です。僕、あの赤野って会計にずっと睨まれて……その後も来てましたよね?目が合ったと思ったらずっと睨まれて」
「まーだ言ってる」と、桂木は溜息をついた。
「気のせいでしょ」と、スマホをイジリならが、阿木も取りなす。
「でもでも、沢村先輩も睨まれてましたよね?あん時」
同意を求められた所で、俺は首を傾げた。
「別に、そうは思わなかったけど」
赤野とは、あの後、親しく話も出来たし。
多分、睨まれていたのは俺らじゃなくて、フザけた態度の右川会長の方だ。
それを言うと、「そうかもしれないね。あれじゃーね」と桂木が、周りに飴を配り始める。
「怖いと言えば」と、その飴を口に放り込んで、阿木は何やら考え込むと、
「今日来てた中で、さっきの3人は明らかにおかしいわよね。イカれてるっていうか。案内する浅枝さんを取り合うっていうか、そんな言い争いを結構してるわよ」
そう!そうなんですっ!と、真木が立ち上がった。
「浅枝さんが僕とちょっと話してるじゃないですか。すると他の男子の目が、もう怖いんですよ。3人どころか、そこらへんが皆一斉に」
そこは、まぁ。
一部に、そういうライバル視が有ってもおかしくはない。
「……大丈夫かしらね」
「浅枝は平気だろ」
女子だし。
ある意味、モテ期が到来。
男子高からして、女子が珍しいという事は想定できる。
そういう男子側の事情は男子側で勝手に盛り上がってもらうとして、付属が男子同士でケンカになろうがどうなろうが、だ。
浅枝に危害が及ぶ事は考えにくい。誰か他の男子が身を挺して庇ってくれる筈。そいつと今カレの石原が一触即発でどうなろうと(それは俺が釘を差しておくが)、いまそんな心配をしている余裕はない。
更衣室、競技場、印を付けた校舎の見取り図……今日中に用意して、そいつらに渡しておかなければの作業が山ほどあった。
浅枝のご案内は、それまでの時間稼ぎといったところ。
せいぜい引っ張ってくれ。
「私達は途中の準備に戻るわね。桂木さん、女子バスケの件で永田くんが呼んでた」
桂木は、「はいはい」と面倒くさそうに受け取って、俺に向けて軽く手を上げてみせると、阿木たちと一緒に出て行った。
結果、俺1人になった。
急に静かになる。そして、心なしか落ち着く。
思い出したようにアクエリアスをガブ飲み。
うっかり飴も一緒になって飲みこんでしまう。
真木が居るとはいえ、女子ばかりに囲まれた、この生徒会。
いちいち訊かれたそれぞれに返事をするだけで、妙に疲れる。
1つ1つの結論を、俺に丸投げしていると思うのは気のせいだろうか。
頼られていると思えば、悪い事ではないけど……これが、やたら疲れる。
勉強していて頭が疲れるのとはワケが違った。ごっそり体力を奪われる。
疲労感が激しい。
そこへいくと付属は男子高。どんなに穏やかで楽だろうな。あの打越会長のもとで動けたら、今ほどの疲れは感じない気がする。俺は議長でもいい。
右川のヤツはまだ現れない。
すっかり家まで帰ってしまったのか。そこまでの時間は無いはずだけど。
その時、生徒会室のドアが勢いよく開いた。