お嬢さん、愛してますよ。
お嬢さん、閉館ですよ。
「お嬢さん、閉館ですよ」
その言葉に顔をあげれば、いつの間にか真っ赤な夕日が窓から差し込み、地べたに座り込む私の影を作っていた。
読みづらいなとは感じたが、もうこんな時間だったとは。いつもそうだ、読書をすると時間を忘れる。
いや、それよりも。
「す、すみません」
私は急いで立ち上がる。しかし長く座っていたせいか立ちくらみがして、ふらりと体が傾いた。
「おっと、危ない」
大きな骨ばった手が肩に優しく触れ、支えられる。すみませんと見上げれば、目の前には整った顔があった。
若干眠たそうな顔つきで、やる気がなさそうな風に見えるが、それも彼の雰囲気なのだろうか。
「大丈夫?」
「あ、すみません」
見とれて動きが止まってしまったんです。
私は急いで離れ、読み終わった本の山を書棚にしまおうとすると、彼も一緒にしまい始めた。すみませんとペコペコ頭を下げる。
「お嬢さんも、本の虫なのかい?」
「あ、あはは、まあ……」
積まれた本の山と引き換えに一部壁の見える空白の書棚。
「君がいつからいたのか知らなかったけど、閉館する前に二階に上がったら、かすかに紙をめくる音が聞こえたからさ。こんなところで可愛いお嬢さんが本に夢中になって読んでたとは」
可愛いお嬢さん…?!
「…………」
「小さいのにもう難しい本も読めるんだね」
「……………」
私は動きを止めた。
「……どうしたの?」
黙り込んだ私を見て、彼は首をかしげる。
「あ、すみません。なんでもありません」
私はにっかりと笑った。それこそ、少女のように。
本をしまって、私はお礼をする。
「おじさん、ありがとうございます」
「ん、早くお家に帰りなよ」
「はーい」
ーーーーそれから4時間後、また彼に会うとは思っていなかった。