僕はキミの心臓になりたい
大勢の人が行き交うシーズン真っ只中の海岸で
人のはしゃぐ声や波の音が常にあるけれど
それもなんとなく静寂な雰囲気になる。
「今日楽しかったな」
「うん。楽しかった」
自然と静かになるけど、それもなんかよかった。
羽賀くんと、こうして静けさの中で
一緒にいられることに幸せを感じる。
私たちの他にも、防堤に座っている
カップルが何組かいて
それらを眺めていても私は焦りを感じていなかった。
昨日気付いた、自分の気持ちを思い出す。
私は羽賀くんの横顔を見つめた。
私は羽賀くんが好き。
好きだけど、あのカップルたちのように
付き合いたいとは思わない。
好きって言える勇気もない。
告白とか、付き合うとかそういった経験が
なかったから、どうしたらいいのか
感覚がつかめないでいる。
ただ、ずっとこうして
一緒にいられるだけでいいんじゃないかと思えてくる。
羽賀くんが私の視線に気づき、「ん?」と振り向いた。
「なんか不思議な感じがして」
「何が?」
「ついこないだまで、羽賀くんとこんな風に一緒にいることなんか想像できなかったのに…」
羽賀くんは私の言いたいことが
わかったらしく、薄っすら笑みを浮かべて前を向いた。