僕はキミの心臓になりたい
「暗くなってきたし、帰るか!」
もう日はすっかり沈み、冷たい空気が肌で感じられた。
「そうだね」
2人で一斉に防堤から立ち上がった時。
「……っ」
羽賀くんの足元がよろめいて、再びしゃがんでしまった。
「羽賀くんどうしたの?」
「ごめん。ちょっと立ちくらみ」
頭を押さえながら立ち上がった。
「大丈夫?」
「ああ。もう平気!行こう」
羽賀くんがぴょんっと防堤を降りたのを見て、
安心して彼の後を追った。
私たちは来た順と同じ経路で
列車に乗って帰っていった。
地元の駅に着き、駅前で羽賀くんとお別れだ。
「じゃあ次会うのは始業式だな」
「だね。あ、早く課題終わらせなよ」
「うわ、現実〜。わかってる、終わらせるよ」
くすくす笑い合った後、羽賀くんが右手を挙げた。
「じゃあな!」
「うん。またね!」
手を振りながら羽賀くんに背中を向け、歩き始めた。
もう一度振り向くと
羽賀くんはまだ手を振ってくれていたので
別れを惜しむように振り返す。
羽賀くんの姿を最後まで見ながら
手を振り続け、やがて角を曲がった。
……この時の私はまだ、幸せを噛み締め
その日の余韻を引きづりながら帰っていただけで彼のことを何も知らなかった。