僕はキミの心臓になりたい



家に着いてリビングのドアを開けると

ソファに座っていたお母さんが振り向いた。


「おかえり」


その顔は、とても穏やかでニコニコしていた。


「……ただいま」


真っ直ぐ洗面所へ行き、

手を洗ってうがいをした後

冷蔵庫を開けて麦茶の入ったボトルを取り出した。


「ねえ、美羽」


「何?」


「もしかして、好きな人できた?」


危うく、麦茶の入ったコップを落としそうになった。


急に何言い出すの、お母さんは。



「なっ何で?」


「美羽の行動見てたらまるわかり。

そうじゃなきゃ、ずっとスマホ握りしめて

誰かからの返事待ったり、

ウキウキしながら出かけたりしないでしょ」



そんなにわかりやすくしてたかな?


お母さんの前では気をつけてたはずなのに。


お母さんにはやっぱり、何でもお見通しなんだ。


「嬉しいのよ、お母さんは。

前よりも笑う事が増えた美羽を見てるとね」



そう言った母はもう私から目線を外し、テレビに戻していた。



笑う事が増えた……


確かにそうかも。


前はずっと一人だったから楽しいとか

おもしろいとかの感情も忘れてたし

笑うどころか学校に行っても一度も

言葉を発さない時もあった。



それが今、羽賀くんと出会ってから

よく笑うようになって

充実感を感じるようになった。



考えこんで、私は一人で笑ってしまった。


すごいね。


たった数ヶ月で、人ってここまで変われるんだね。


目の前に団子を頬張る彼の姿が浮かんだ。


私は、彼によって変えられた。


目に映るもの全てが色付いたように、私の世界が変わりだしたんだ。




< 114 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop