僕はキミの心臓になりたい
ー「これからは、自分のやりたい事を
思いっきりやりながら生きていくんだ。
決して、悔いの無いように」ー
桜田医師が話していた事を思い返しながら
俺は1ヶ月ぶりに我が家に帰った。
この安心感のある家の香りも
家具の配置もまるで別の家のもののようだ。
同じ家に帰ってきたはずなのに
俺の目から見る世界はすべて変わってしまった。
1ヶ月前の自分はもう、どこにもいない。
もうきっと、あの頃のようには笑えない。
時間の流れの感じ方も、変わってくるだろう。
仏間を覗くと、おふくろが2年前に死んだ
親父の仏壇の前に座り込んで泣いていた。
震えていたその背中は、とても小さく見えた。
おふくろの姿を横目に静かに廊下を歩き
階段を上がって自分の部屋に入った。
机の引き出しから
茶色いカバーのかかった手帳を取り出す。
この手帳は親父が生きていた時に
俺にくれたものだった。
いつか大事な用事がある時に使おうと
ずっと使う時を待ちながら引き出しにしまっていた。