【医、命、遺、維、居】場所
「それに。」








思い出して、反芻する。








「それにね。泣いてくれた人がいたの、私の代わりに。その人が、涙も想いも全部持っていってくれた。だから私はこれでいいと思えた、という訳ですよ。」





「傅雖先生~・・」





「泣きそうな顔しないで。ほら、駒枝さんも。私は杏梨がそばにいてくれるからむしろ嬉しいんです。麦傍先生も駒枝さんも、みんないるし、ね。」





ナースステーションのカウンターの奥にいる看護師達にも目を向け、ありがとうの気持ちを込めて麦傍先生の肩に手を置いた。







『普通の家族』という理想を追い求めて、
『無い物ねだり』して現実に嫌われたから。




もう。




『優しさ』に裏切られて、
『雰囲気』を奪われる前に。





そして、麦傍先生の言葉を遮ったのは、可哀想と言われそうだったから。




私は、可哀想という単語が大嫌い。


確かに両親には愛されなかったが、愛情は叔母さんがくれた。






だから、私は可哀想なんかじゃない。






可哀想じゃないから、『これでいい』の。
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