【医、命、遺、維、居】場所
【巧side】







「それにね。泣いてくれた人がいたの、私の代わりに。その人が、涙も想いも全部持っていってくれた。だから私はこれでいいと思えた、という訳ですよ。」









前後の会話は聞き取れなかったものの、その言葉には思い当たる節があった。










・・・・・・時分時に失礼なぐらいになってしまったと、腹が減りすぎて変な世迷言を並べながら歩く。


患者への説明が終わった遥と出くわして、頼まれていたテイクアウトのカツ丼を渡す。






「よく食えるよな、そんな量。」





「食えるよ。ってか、僕はむしろ巧の方が心配だよ。それだけって。」







袋の中身は、菓子パン数種類とミルクココアだ。







「これがベストなんだよ。」







糖分は必要不可欠だろうが。




・・・いや、甘甘な遥には不要なのか?







そんなくだらないことも考えながら、ナースステーション脇の階段を上がっていると。






麦傍のうるさい声が聞こえてきた。



揉め事でも起こしたのかと思ったら。




柚希の、杏梨ちゃんの名前を教えてくれた時みたいな、少し諦めてなだめるような、『これでいい。』なんて声が聞こえてきて。




なんとなく、なんかじゃなく、かなり出にくくかったから、柚希が小児科へ呼ばれていなくなるまで動けなかった。





それは遥も同じようで。








「巧。」





「ん?」




「後でフォローしといた方がいいよ。」




「・・なんで俺が。お前がすればいいだろ。」





前みたいに。








「僕じゃダメだよ、巧じゃないと。じゃ、頼んだよ。」







「あっ、おい・・・!」






返事というか反論する間も無く遥は行ってしまって、すぐに麦傍や駒枝さんとの会話が聞こえてきてきた。
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