【医、命、遺、維、居】場所
「巧。」






翌日、私の勇気が変わってしまわないうちにと、巧を呼び止めた。






「なに?」



「仕事終わり時間ある?ちょっと話が」




「あ、傅雖先生、樫岡先生。ちょうどいいところに。院長がお呼びです。」






出鼻をくじかれてしまった。







「忙しいとこ悪いね。」






盾釶(タテナタ)院長は、生羯メディカルセンターの院長に就任して20年。



現場を退いてはいるけど、最新医療にも積極的に関心を示してくれる視野の広い人。








「いえ、大丈夫です。お話というのは?」





「槌鴨(ツチガモ)総合病院の約曲(ヤグセ)院長はぼくの古くからの知り合いなんだが、彼から連絡をもらったんだ。樫岡先生のお父上の件でね。」






ゆったりとした口調で話してくれるけど、盾釶院長と約曲院長が昵懇の間柄だったなんて初耳なんだけど。




横目で見た巧もそうらしく少し驚いた表情をしている。






「父がなにか?」




「体調のことは聞いているかね?」




「いえ。先日倒れたと約曲院長からご連絡いただいて帰らせてもらいましたけど、父からはなにも。本人はただの過労だと言い張っていましたから。」







言い張って、に力がこもっている気がした。







「そうか。その件で相談があるから樫岡先生に来て欲しいそうだ。それとその事で向こうの産婦人科が回らなくなってしまうから、近隣の病院の都合がつくまでの一週間、一人寄越して欲しいとも言われてね。傅雖先生なら設備が変わっても対応出来るかと思って呼んだんだ。どうかね、引き受けてくれるか?」





「はい、私でお役に立てるのでしたら。」






巧が何か言いたそうにしたけど、盾釶院長の手前飲み込んだらしい。







「それじゃ頼んだよ。」
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