【医、命、遺、維、居】場所
「遠いところを、この度は私の代わりに引き受けてくださってありがとうございます。槌鴨総合病院の産婦人科医で巧の父の樫岡弦沓(カシオカ ゲントウ)といいます。」




「同僚の傅雖柚希と申します。今日から一週間お世話になります。」








潮風香る、2階建ての和風一軒家。








「どうぞお上がりください。」




「ありがとうございます。おじゃまします。」








玄関先で挨拶と自己紹介を済ませる。






巧が事前に連絡してくれていたおかげで、弦沓さんお手製の夕食をいただくことが出来た。



ただ私の手前、巧と弦沓さんは終始うわべを取り繕ったような感じではあったけれど。







「いい加減にしろよ!親父がいなくても病院は回るんだよ!」



「おれがいなきゃダメだ。お前、自分を過小評価すると周りからも過小評価されるんだ。そんなことじゃ患者に」





「親父は過大評価しすぎなんだよ。医者が過信したら取り返しがつかない!生涯現役を押し通されんのは迷惑なだけだ。」





「この町を出ていったお前に言われる筋合いはない。約曲院長から何を言われたか知らんが、おれを頼ってくれている患者を放りだすわけにはいかん。医者として死ぬか病人として生きるか。そうなれば、おれは医者を選ぶ。」








厚意に甘えて先にいただけたお風呂からあがると、巧の怒鳴り声とそれに応じる弦沓さんの不機嫌な声がしてくる。







「(やっちゃってる・・・どうしようか・・)」








案の定、居間で繰り広げられているみたい。




原因は十中八九、約曲院長と話した内容のことなんだろうなー。
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