君のいた時を愛して~ I Love You ~
三十
 病院へ向かうサチの足は重かった。
 体の具合が悪いだけでなく、頑張って貯めたお金がコータのために使われることなく、自分のために使われて消えて行ってしまうことがたまらなく悲しかった。


「中村さん、本日は、前回の検査結果の確認ですね?」
 笑顔で問いかける受付の女性に、サチは『はい』とだけ答えた。
「では、おかけになってお待ちください」
 そんなに混んでいない待合室に見られるのは、年配の姿ばかりだった。

(・・・・・・・・そっか、そうだよね。この時間、学生は学校があるし、普通の人は働いて貨車にいるんだよね・・・・・・・・)

 サチは次から次へと入ってくる年配の患者を見ながら思った。


「中村さん」
 たいして待つことなく呼ばれたサチは、急いで診察室に入った。
 一分、一秒でも早く終わらせて『何も心配はない』とコータに伝えたかった。
「どうぞ、おかけください」
 そういって椅子を勧める医師の表情は明るくはなかった。
「中村さん、今まで病院にはかかってなかったんですか?」
 深刻な表情で尋ねる医師に、サチは笑顔で答えた。
「はい。健康なのがとりえで、最後にかかったのは、子供のころだったと思います」
「そうですか・・・・・・」
 医師は何かを考えているようだったが、サチはただ、早く終わってと祈り続けた。
「血液検査の結果ですが、とても心配な結果が出ています。今日、いらっしゃらなければ、お電話をするつもりだったのですが、早急に、もっと大きな病院で精密検査を受けていただく必要があります」
 医師の言葉は、サチの中を通り過ぎていき、サチは言葉を理解することができなかった。
「中村さん、聞いていらっしゃいますか?」
 心配げに医師がサチの瞳を覗き込んだ。
「どこも、悪くないんですよね? ただ、心配なだけですよね?」
 サチは自分でも気づかないうちに震えていた。
「中村さん、よく聞いてください。血液検査の結果は異常値で、再検査後も異常値を示しています。速やかに、大きな医療機関での検査と、治療が必要です」
 目の前が暗くなり、サチは診察室の椅子から落ちそうになった。
 医師が慌ててサチを抱きとめ、何かを指示していたがサチにはもう聞こえなかった。

☆☆☆

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