君のいた時を愛して~ I Love You ~
ささやかな食事の後、俺とサチはタクシーであおぞら内科クリニックへ向かった。
クリニックでターミナルケアを受けるためには、一度紹介状を持って受診しないといけないという説明だったので、サチを歩かせたくない俺は、そのままタクシーで向かうことにした。
紹介状の内容を確認した佐伯先生は、じっとサチの事を見つめた。
「中嶋先生からのお手紙は拝見しました。今後は、こちらのクリニックを受診していただき、クリニックに通院することが困難と判断した場合には、私が訪問しての診察を続けるということになります。今現在、気になる症状はありますか?」
「とても怠くなるのと、よく気分が悪くて食事ができないことがあります」
サチの言葉に、佐伯先生は頷いた。
「わかりました。食事は、沢山食べなくてもよいので、栄養価の高いものを摂るようにしてください。それから、もしも、食事がとれないということでしたら、点滴も考えなくてはいけないので、どれぐらい食事がとれているかを記録するようにしてください」
佐伯先生の説明に、サチは『はい』と言って頷いた。
「訪問の場合は、水曜日の午後になります。それ以外の日は、クリニックの患者さんが優先になりますので、緊急時は救急で中嶋先生のところに受診していただく必要があるかもしれませんので、その点はご理解ください」
佐伯先生は静かな声で説明してくれた。でも、その言葉の意味することは、いずれサチは一人では起き上がることもできなくなるということだ。
俺は、何か質問はありますかと佐伯先生に問われても、何も言葉を発することはできなかった。
クリニックからの帰り道、サチはまるでこの世の見納めのように、色々な場所で立ち止まってはその風景を瞳に焼き付けるかのように、じっと見つめては俺の手をぎゅっと握った。
「コータ」
もうすぐアパートに着くという角で立ち止まると、サチが俺に声を掛けた。
「どうしたサチ? 疲れたんなら、おんぶして帰ってあげるよ」
俺の言葉に、サチは俺の手をぎゅっと握った。
「あたし、最期の時は、コータにそばにいて欲しい」
サチの言葉に、俺は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。
「あたし、一人で死にたくない」
サチは、もう一度言った。
「サチ、そんなこと考えないで、一日も早く、ドナーが見つかりますようにって、一緒に祈ろう」
俺は、自分の言葉が気やすめでないことを知りながら言った。
「コータ、現実を見て」
サチは俺を夢から醒まそうとするかのように、力いっぱい俺の手を握った。
「コータ、あたしはもうすぐ死ぬんだよ」
それは、街角で立ち止まって話すような、軽い話ではなく、俺はサチの意思を無視して、無理矢理抱きしめると、サチが次の言葉を話す前に無理矢理抱き上げてアパートへ向かった。
俺の気持ちを察したのか、サチはそれ以上何も言わなかった。
☆☆☆
クリニックでターミナルケアを受けるためには、一度紹介状を持って受診しないといけないという説明だったので、サチを歩かせたくない俺は、そのままタクシーで向かうことにした。
紹介状の内容を確認した佐伯先生は、じっとサチの事を見つめた。
「中嶋先生からのお手紙は拝見しました。今後は、こちらのクリニックを受診していただき、クリニックに通院することが困難と判断した場合には、私が訪問しての診察を続けるということになります。今現在、気になる症状はありますか?」
「とても怠くなるのと、よく気分が悪くて食事ができないことがあります」
サチの言葉に、佐伯先生は頷いた。
「わかりました。食事は、沢山食べなくてもよいので、栄養価の高いものを摂るようにしてください。それから、もしも、食事がとれないということでしたら、点滴も考えなくてはいけないので、どれぐらい食事がとれているかを記録するようにしてください」
佐伯先生の説明に、サチは『はい』と言って頷いた。
「訪問の場合は、水曜日の午後になります。それ以外の日は、クリニックの患者さんが優先になりますので、緊急時は救急で中嶋先生のところに受診していただく必要があるかもしれませんので、その点はご理解ください」
佐伯先生は静かな声で説明してくれた。でも、その言葉の意味することは、いずれサチは一人では起き上がることもできなくなるということだ。
俺は、何か質問はありますかと佐伯先生に問われても、何も言葉を発することはできなかった。
クリニックからの帰り道、サチはまるでこの世の見納めのように、色々な場所で立ち止まってはその風景を瞳に焼き付けるかのように、じっと見つめては俺の手をぎゅっと握った。
「コータ」
もうすぐアパートに着くという角で立ち止まると、サチが俺に声を掛けた。
「どうしたサチ? 疲れたんなら、おんぶして帰ってあげるよ」
俺の言葉に、サチは俺の手をぎゅっと握った。
「あたし、最期の時は、コータにそばにいて欲しい」
サチの言葉に、俺は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。
「あたし、一人で死にたくない」
サチは、もう一度言った。
「サチ、そんなこと考えないで、一日も早く、ドナーが見つかりますようにって、一緒に祈ろう」
俺は、自分の言葉が気やすめでないことを知りながら言った。
「コータ、現実を見て」
サチは俺を夢から醒まそうとするかのように、力いっぱい俺の手を握った。
「コータ、あたしはもうすぐ死ぬんだよ」
それは、街角で立ち止まって話すような、軽い話ではなく、俺はサチの意思を無視して、無理矢理抱きしめると、サチが次の言葉を話す前に無理矢理抱き上げてアパートへ向かった。
俺の気持ちを察したのか、サチはそれ以上何も言わなかった。
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