君のいた時を愛して~ I Love You ~
仕事に行っても、俺はあの歌が気になり、気付くと頭の中では歌いだしの部分を繰り返し思い出していた。きっと、インターネットというものを使えば、すぐにわかる事だろうが、パソコンを持っていない俺には、どうやって調べていいのかも思いつかなかった。
俺自身が聞いたのは、母さんが歌っているのだけで、当時、テレビで聞いた覚えもない。だとすると、母さんが若いころの歌ってことになる。知っているとしたら、同じ世代の薫子さんか、母さんと親しかった、あの男ぐらいしか思い当たらなかった。
しかし、既に薫子さんには十分迷惑をかけているし、この挙句に歌の事で連絡をしたり訪ねたりして、あの男に知られたりしたら薫子さんに迷惑がかかるから、それはできない。
俺はモヤモヤとしながら、なんとか仕事をやっつけてスーパーを出るとダッシュでリサイクルショップを目指した。
一応、昼に電話をして今晩立ち寄りたいということは話しておいたので、『閉店』の札が下がっていても入っていいとは言われているが、やはり営業時間外に押し掛けるのは申し訳ないので、何とか営業時間中に滑り込みたいと、バスを降りると必死で走った。
ガラガラと音を立てそうなくせに、音もなくするりと滑って開く開き戸に、いつもと同じ肩すかしを食らいながら、俺は閉店直前のリサイクルショップに走りこんだ。
「あら、早かったのね」
おばさんは言うと、俺の後ろに回って『閉店』と書かれた札を戸にぶら下げた。
「ステレオが欲しいんだって?」
「ええ、サチがCDを聞きたいって言ってまして」
俺はかいつまんで説明した。
「じゃあ、ミニコンポでいいね」
おばさんは言うと、俺をステレオが並んでいる場所に連れて行ってくれた。
「ミニコンポはいいけど、それでも場所をとるわよ」
俺の部屋の狭さをほとんどリアルにイメージできるおばさんは、思わず『デカい』と心の中でつぶやきそうになった俺に言った。
「ところで、聞きたいCDってなんなの? 沢山あるの?」
「いえ、一枚だけです。多分。実は、まだ誰のなんて曲かもわからなくて、見つけたら、すぐにサチに聞かせてあげたいと思って、用意だけはしておきたいなって思ってるんです」
俺は言うと、やせ細り、弱ったサチの姿を思い浮かべた。
「さっちゃん、最近は全く姿を見せないけど、もしかして具合、相当悪いんじゃないの?」
おばさんの言葉に、知らないうちに涙が零れた。
サチが悲しむから、サチが苦しんでいるから、そう思うとサチの前ではなく事ができなかった俺なのに、優しいおばさんの言葉に、俺はみっともないほどボロボロと涙を流していた。
「もう、ダメかもしれないって・・・・・・」
俺の言葉におばさんが息をのんだ。
「サチは、何があっても絶対に入院したくないって、それで、今はあおぞら内科の佐伯先生の訪問診療を受けて、ターミナルケアって言うらしいんですけど、痛みとか、苦しいのを軽減させて、最期の時が来るのを待つだけみたいな、そんな感じなんです」
「でも、まだ、移植の可能性もあるんでしょ?」
おばさんは俺の上着に縋り付くようにして問いかけた。
「サチ次第です。訪問の点滴と食事で、どれだけ体力を持たせられるか、ドナーが見つかった時、体力的に移植に耐えられる状態であれば、移植を行うということにはなっているんですが、入院に必要な前払い金も足りないし、ドナーだって何百万人に一人の可能性とか・・・・・・、もう、どうしていいかわからないんです。だから、サチが聞きたいって曲を探して、聞かせてあげたいとか、そんなことしか俺にはできなくて・・・・・・」
『俺はなんて無力なんだ』と、続けたくても声は出ず、嗚咽に変わっていた。
おばさんは、俺を母親のようにしっかりと抱きしめてくれた。
母が亡くなってから、初めて誰かに自分の想いを聞いてもらいたいと、この苦しい思いを誰かに聞いてもらいたいと、俺はおばさんに抱きしめられながら心からそう思った。
「さっちゃんも辛いけど、あんたも辛いね・・・・・・」
おばさんは言うと、俺をカウンターの後ろへ、店舗の後ろに作られた控室というよりも、昭和を感じさせる居間のような部屋に案内してくれた。
「寒いでしょう。こたつ出してるから、遠慮なく入ってちょうだい」
おばさんに促されるまま、俺は上着を脱ぐとこたつに入った。おばさんはお茶を入れてくれると、パソコンを取り出した。
「で、どんな曲なんだい?」
俺よりも、巧みにパソコンとマウスを扱うおばさんは、俺の方を見つめた。
「俺の記憶では、小さいころに母が歌っていたことくらいで、それ以外には、記憶はないんです」
「ってことは、歌謡曲だね。さっちゃんの歳から考えると、子供の頃ってことは、八十年代後半の曲になるわね。多分、九十年代後半の曲なら、記憶もしっかりあるだろうしね」
「それに母は、俺が高校の時に亡くなったので、遅くても九十年代の前半・・・・・・。でも、そうすると、もう小さくないな、俺が・・・・・・」
俺は必死に母が歌っていた姿を思い出そうとした。
「で、歌詞は覚えているのかい?」
「最初だけです。英語でI love youって始まるんです」
俺の言葉に、おばさんは『まさか、英語の歌かい?』と、焦った様子だったが、俺がそのあとは日本語の歌詞だったと思うと答えると、少しホッとした表情を浮かべた。
「あんた、歌えるのかい?」
おばさんの問いに、俺は渋々頷いた。自分のためなら、絶対に歌ってみろと言われても断るところだが、サチのためなら、なんだってできる。
俺は頷くと、大きく息を吸ってから、うろ覚えの歌いだしを歌ってみた。すると、おばさんは『ああ!』という表情を浮かべてパソコンのキーをパチパチと叩いた。
何かを調べているようで、しばらく俺は沈黙してお茶を飲んだ。
「ああ、あったあった。この歌詞ね」
パソコンをくるりと俺の方に向けると、そこには歌詞が表示されていた。俺は、最初の部分しか覚えていなかったが、サチがくれた『悲しい歌は聞きたくない』という言葉はと同じニュアンスの歌詞がそのあとに続いていることを確認して、俺はこの曲だと確信した。
「その曲ね。結構流行ったのよ。最近でもよくかかるけど、スーパーや定食屋ではかからない曲だわね。ちょっと待っててね」
おばさんは言うと、俺を一人残して部屋を出ると倉庫の方へと姿を消した。
残された俺は、画面に表示された歌詞を読んだ。そして、この曲を歌っていた母が何を思ってこの曲を歌っていたのだろうと思った。
互いに愛し合いながら、自由恋愛を許されなかった母と無責任な恋人。それでも、一度は二人で駆け落ちまでしたのに。結局、捨て猫になったのは、母と俺だった。そして、二番の歌詞は、俺とサチのようだった。
こんな悲しい歌を今のサチに聞かせていいのだろうか?
俺が悩んでいると、おばさんが戻ってきた。
「あったわよ」
おばさんの言葉の意味が分からず、俺が首をかしげると、おばさんは俺の目の前に一枚のCDシングルを差し出した。
「この間ね、不用品をまとめて引き取った中に沢山CDがあったのよ。でね、確かその時、この曲があったと思ったから、探してきたの。
「ありがとうございます」
曲のタイトルまでは期待していたが、まさかCDが見つかると思ってなかった俺は、条件反射でCDを受け取った。
「コンポだと、病人には操作が面倒かもしれないから、こういうのはどうかしら」
おばさんは言うと、小さい機械をパソコンにつないだ。
「それは?」
大学生のアルバイトが事務室のロッカーに似たような機械をしまっているのを見たことがあるが、どんな仕様なのかは知らなかった。
「これは、MP3プレーヤーって言ってね、軽くて持ち運べて音楽が聴ける機械なのよ。で、これに、こっちのスピーカーをつなぐと、二人で聞くときはスピーカーに繋いで、二人でも聞けるようになるのよ。これ以外のCDも聞きたくなったら、その時はミニコンポじゃなく、パソコンを買った方が無難よ。とにかく、場所を取らないから」
おばさんは俺の手からCDを取り上げるとパソコンのトレイにディスクを入れた。
CDよりも小さい直径九センチ程のCDシングルは、レコードと同じで二曲しか収録されていなかった。
「小さな精密機械は、場所をとるコンポよりも値が張りそうで、俺は少しドキドキしながらおばさんの作業が終わるのを待った」
「おわったわよ」
おばさんは言うと、CDをケースにしまった。
「一応、マニュアルはあるけど、使い方は簡単。真ん中を押すと曲が再生されるから、イヤフォンをつなげば夜中でも聞くことができるし、こっちのスピーカーに繋いで再生すれば、ほらね」
おばさんの言葉を合図にしたように、スピーカーから懐かしい曲が流れた。しかし、どう見てもMP3プレーヤーなるものとスピーカーは接続されてはいない。
魔法か???? 昔は機械には強い方だったが、今では最先端技術なんて何かになんだか想像もつかない。
俺の疑問を見透かしたように、おばさんが説明してくれた。ケーブルではなく、ブルートゥースなる技術でつながっているらしいが、詳しいことはよく理解できなかった。
「充電は忘れないようにね」
おばさんは言うと、手書きの納品書にCD、プレーヤー、スピーカーと書き込んでいった。ドキドキしながら見ていると、値段はどれも格安だった。
「本当は、もっとお勉強してあげたいんだけどね、プレーヤーは型落ちしてるけど、スピーカーは新品だから、これ以上安くすると甥っ子に怒られちゃうから許してね」
「いいえ、お安くしてくださって、いつもありがとうございます」
俺は財布からお金を取り出し、おばさんに手渡した。
「もし、他に聞きたい曲があったら、どんどん入れてあげるから、さっちゃんの好みも聞いておいて。あと、まとめて引き取ったCDの中に気に入ったものがあれば、格安にするからね」
笑顔で言うおばさんからお釣りを受け取り、店を後にした。
俺自身が聞いたのは、母さんが歌っているのだけで、当時、テレビで聞いた覚えもない。だとすると、母さんが若いころの歌ってことになる。知っているとしたら、同じ世代の薫子さんか、母さんと親しかった、あの男ぐらいしか思い当たらなかった。
しかし、既に薫子さんには十分迷惑をかけているし、この挙句に歌の事で連絡をしたり訪ねたりして、あの男に知られたりしたら薫子さんに迷惑がかかるから、それはできない。
俺はモヤモヤとしながら、なんとか仕事をやっつけてスーパーを出るとダッシュでリサイクルショップを目指した。
一応、昼に電話をして今晩立ち寄りたいということは話しておいたので、『閉店』の札が下がっていても入っていいとは言われているが、やはり営業時間外に押し掛けるのは申し訳ないので、何とか営業時間中に滑り込みたいと、バスを降りると必死で走った。
ガラガラと音を立てそうなくせに、音もなくするりと滑って開く開き戸に、いつもと同じ肩すかしを食らいながら、俺は閉店直前のリサイクルショップに走りこんだ。
「あら、早かったのね」
おばさんは言うと、俺の後ろに回って『閉店』と書かれた札を戸にぶら下げた。
「ステレオが欲しいんだって?」
「ええ、サチがCDを聞きたいって言ってまして」
俺はかいつまんで説明した。
「じゃあ、ミニコンポでいいね」
おばさんは言うと、俺をステレオが並んでいる場所に連れて行ってくれた。
「ミニコンポはいいけど、それでも場所をとるわよ」
俺の部屋の狭さをほとんどリアルにイメージできるおばさんは、思わず『デカい』と心の中でつぶやきそうになった俺に言った。
「ところで、聞きたいCDってなんなの? 沢山あるの?」
「いえ、一枚だけです。多分。実は、まだ誰のなんて曲かもわからなくて、見つけたら、すぐにサチに聞かせてあげたいと思って、用意だけはしておきたいなって思ってるんです」
俺は言うと、やせ細り、弱ったサチの姿を思い浮かべた。
「さっちゃん、最近は全く姿を見せないけど、もしかして具合、相当悪いんじゃないの?」
おばさんの言葉に、知らないうちに涙が零れた。
サチが悲しむから、サチが苦しんでいるから、そう思うとサチの前ではなく事ができなかった俺なのに、優しいおばさんの言葉に、俺はみっともないほどボロボロと涙を流していた。
「もう、ダメかもしれないって・・・・・・」
俺の言葉におばさんが息をのんだ。
「サチは、何があっても絶対に入院したくないって、それで、今はあおぞら内科の佐伯先生の訪問診療を受けて、ターミナルケアって言うらしいんですけど、痛みとか、苦しいのを軽減させて、最期の時が来るのを待つだけみたいな、そんな感じなんです」
「でも、まだ、移植の可能性もあるんでしょ?」
おばさんは俺の上着に縋り付くようにして問いかけた。
「サチ次第です。訪問の点滴と食事で、どれだけ体力を持たせられるか、ドナーが見つかった時、体力的に移植に耐えられる状態であれば、移植を行うということにはなっているんですが、入院に必要な前払い金も足りないし、ドナーだって何百万人に一人の可能性とか・・・・・・、もう、どうしていいかわからないんです。だから、サチが聞きたいって曲を探して、聞かせてあげたいとか、そんなことしか俺にはできなくて・・・・・・」
『俺はなんて無力なんだ』と、続けたくても声は出ず、嗚咽に変わっていた。
おばさんは、俺を母親のようにしっかりと抱きしめてくれた。
母が亡くなってから、初めて誰かに自分の想いを聞いてもらいたいと、この苦しい思いを誰かに聞いてもらいたいと、俺はおばさんに抱きしめられながら心からそう思った。
「さっちゃんも辛いけど、あんたも辛いね・・・・・・」
おばさんは言うと、俺をカウンターの後ろへ、店舗の後ろに作られた控室というよりも、昭和を感じさせる居間のような部屋に案内してくれた。
「寒いでしょう。こたつ出してるから、遠慮なく入ってちょうだい」
おばさんに促されるまま、俺は上着を脱ぐとこたつに入った。おばさんはお茶を入れてくれると、パソコンを取り出した。
「で、どんな曲なんだい?」
俺よりも、巧みにパソコンとマウスを扱うおばさんは、俺の方を見つめた。
「俺の記憶では、小さいころに母が歌っていたことくらいで、それ以外には、記憶はないんです」
「ってことは、歌謡曲だね。さっちゃんの歳から考えると、子供の頃ってことは、八十年代後半の曲になるわね。多分、九十年代後半の曲なら、記憶もしっかりあるだろうしね」
「それに母は、俺が高校の時に亡くなったので、遅くても九十年代の前半・・・・・・。でも、そうすると、もう小さくないな、俺が・・・・・・」
俺は必死に母が歌っていた姿を思い出そうとした。
「で、歌詞は覚えているのかい?」
「最初だけです。英語でI love youって始まるんです」
俺の言葉に、おばさんは『まさか、英語の歌かい?』と、焦った様子だったが、俺がそのあとは日本語の歌詞だったと思うと答えると、少しホッとした表情を浮かべた。
「あんた、歌えるのかい?」
おばさんの問いに、俺は渋々頷いた。自分のためなら、絶対に歌ってみろと言われても断るところだが、サチのためなら、なんだってできる。
俺は頷くと、大きく息を吸ってから、うろ覚えの歌いだしを歌ってみた。すると、おばさんは『ああ!』という表情を浮かべてパソコンのキーをパチパチと叩いた。
何かを調べているようで、しばらく俺は沈黙してお茶を飲んだ。
「ああ、あったあった。この歌詞ね」
パソコンをくるりと俺の方に向けると、そこには歌詞が表示されていた。俺は、最初の部分しか覚えていなかったが、サチがくれた『悲しい歌は聞きたくない』という言葉はと同じニュアンスの歌詞がそのあとに続いていることを確認して、俺はこの曲だと確信した。
「その曲ね。結構流行ったのよ。最近でもよくかかるけど、スーパーや定食屋ではかからない曲だわね。ちょっと待っててね」
おばさんは言うと、俺を一人残して部屋を出ると倉庫の方へと姿を消した。
残された俺は、画面に表示された歌詞を読んだ。そして、この曲を歌っていた母が何を思ってこの曲を歌っていたのだろうと思った。
互いに愛し合いながら、自由恋愛を許されなかった母と無責任な恋人。それでも、一度は二人で駆け落ちまでしたのに。結局、捨て猫になったのは、母と俺だった。そして、二番の歌詞は、俺とサチのようだった。
こんな悲しい歌を今のサチに聞かせていいのだろうか?
俺が悩んでいると、おばさんが戻ってきた。
「あったわよ」
おばさんの言葉の意味が分からず、俺が首をかしげると、おばさんは俺の目の前に一枚のCDシングルを差し出した。
「この間ね、不用品をまとめて引き取った中に沢山CDがあったのよ。でね、確かその時、この曲があったと思ったから、探してきたの。
「ありがとうございます」
曲のタイトルまでは期待していたが、まさかCDが見つかると思ってなかった俺は、条件反射でCDを受け取った。
「コンポだと、病人には操作が面倒かもしれないから、こういうのはどうかしら」
おばさんは言うと、小さい機械をパソコンにつないだ。
「それは?」
大学生のアルバイトが事務室のロッカーに似たような機械をしまっているのを見たことがあるが、どんな仕様なのかは知らなかった。
「これは、MP3プレーヤーって言ってね、軽くて持ち運べて音楽が聴ける機械なのよ。で、これに、こっちのスピーカーをつなぐと、二人で聞くときはスピーカーに繋いで、二人でも聞けるようになるのよ。これ以外のCDも聞きたくなったら、その時はミニコンポじゃなく、パソコンを買った方が無難よ。とにかく、場所を取らないから」
おばさんは俺の手からCDを取り上げるとパソコンのトレイにディスクを入れた。
CDよりも小さい直径九センチ程のCDシングルは、レコードと同じで二曲しか収録されていなかった。
「小さな精密機械は、場所をとるコンポよりも値が張りそうで、俺は少しドキドキしながらおばさんの作業が終わるのを待った」
「おわったわよ」
おばさんは言うと、CDをケースにしまった。
「一応、マニュアルはあるけど、使い方は簡単。真ん中を押すと曲が再生されるから、イヤフォンをつなげば夜中でも聞くことができるし、こっちのスピーカーに繋いで再生すれば、ほらね」
おばさんの言葉を合図にしたように、スピーカーから懐かしい曲が流れた。しかし、どう見てもMP3プレーヤーなるものとスピーカーは接続されてはいない。
魔法か???? 昔は機械には強い方だったが、今では最先端技術なんて何かになんだか想像もつかない。
俺の疑問を見透かしたように、おばさんが説明してくれた。ケーブルではなく、ブルートゥースなる技術でつながっているらしいが、詳しいことはよく理解できなかった。
「充電は忘れないようにね」
おばさんは言うと、手書きの納品書にCD、プレーヤー、スピーカーと書き込んでいった。ドキドキしながら見ていると、値段はどれも格安だった。
「本当は、もっとお勉強してあげたいんだけどね、プレーヤーは型落ちしてるけど、スピーカーは新品だから、これ以上安くすると甥っ子に怒られちゃうから許してね」
「いいえ、お安くしてくださって、いつもありがとうございます」
俺は財布からお金を取り出し、おばさんに手渡した。
「もし、他に聞きたい曲があったら、どんどん入れてあげるから、さっちゃんの好みも聞いておいて。あと、まとめて引き取ったCDの中に気に入ったものがあれば、格安にするからね」
笑顔で言うおばさんからお釣りを受け取り、店を後にした。