君のいた時を愛して~ I Love You ~
「あっ!」
次の瞬間、サチにあの曲の事を話すのを忘れたことに気付いた俺が声を上げると、サチが頭を動かして俺の方を向いた。
「どうしたのコータ?」
薬のせいでかすれてしまった声が痛々しい。
「今日、リサイクルショップに行ったんだけど、そうしたら、あの曲がわかったんだ」
俺が言うと、暗い部屋でも明らかに、サチが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「それがさ、あのおばさん魔法使いだよ。もう絶対に!」
俺は言うと、事のあらましをかいつまんで説明した。すると、サチがすぐに聞きたいというので、俺はベッドから出ておばさんから譲ってもらってきたスピーカーを枕もとに置き、MP3プレーヤーを使って曲をかけた。
音のない部屋に静かにピアノの音が響き、男性ボーカルの囁くような、自分の想いを語るような歌が流れた。壁の薄いアパートだから大きな音は出せないけれど、枕もとのスピーカーから流れる曲は、サチが聞くには充分な音量だった。
「この曲。懐かしい・・・・・・」
サチは言うと、瞳を潤ませた。
「なんか、こうして聞くと、この歌詞、あたしとコータみたい。お互い、変えられない過去と辛い記憶と、冷たい親と・・・・・・。ただ、抱き合うしかできないのに、それももうすぐ出来なくなるんだね・・・・・・」
サチの言葉に、俺は頭を横に振りながらサチの元に戻ってサチを抱きしめた。
「もう一度、コータと愛し合いたかったな・・・・・・」
「そんなことない。俺は、サチ以外なにも要らない・・・・・・。サチがそばにいてくれれば、それだけでいいんだ・・・・・・」
でも俺には、サチの病気が良くなるとか、ドナーが見つかるとか、治るとか、そんな気休めにしかならない言葉を口にすることはできなかった。そうあって欲しいとは願っているが、その言葉を口にすることが、逆にサチを傷つけるような気がして、口にすることはできなかった。
短い曲はすぐに終わってしまい、涙を流すサチのために俺はもう一回曲をかけた。
「この二人、幸せになれなかったのかな・・・・・・」
「二人は幸せだったんだよ」
「コータが愛してるって言ってくれるのが、あたしの精神安定剤なのと一緒だね」
サチがかすかにほほ笑んだ。
「それは、俺も同じだよ。サチが俺のことを好きだって言ってくれるのが、俺にとっては一番だから」
俺の言葉にサチが微笑む。
失いたくない。絶対に失いたくない。サチを失うくらいなら、俺の命をサチに、俺の命をサチにすべて差し出しても構わない。
「温かくなったら、散歩に行こう・・・・・・」
サチは歩けないから車いすが要るけれど、マスクをしてれば先生も許してくれるはず。俺はそう思うと、サチのためにもう一回曲を流した。
「散歩・・・・・・。もう、あたし歩けないよ」
「それは、先生に車いす借りてくるよ」
「じゃあ、桜の花、もう一度見られるかな?」
サチの言葉に、俺は二人で花見に行ったことがないことに気付いた。
「そうだな。二人で見に行こう」
俺は言うと、サチをぎゅっと抱きしめた。
まだまだ外は寒いが、もう春の声は聞こえてきている。桜が咲くまではあと少しまでとは言わないまでも、そう遠くはない。それに、そんなに早くサチを失うなんて考えたくもない。
「今年こそ、見に行こう。いつも、銭湯へ行く道の桜を見上げて夜桜なんてごまかしてたけど、今年はちゃんと見に行こう。俺もサチと一緒に桜が見たいよ」
俺の言葉に、サチはコクリと頷いた。
「もっと、曲かける?」
静まり返った部屋に気付いた俺が問いかけた。
「うん、眠るまで聞いていたい」
サチの言葉に、俺はライトの明かりでマニュアルをパラパラとめくりリピートして再生する方法を確認した。
小さな液晶画面を確認しながら、リピート再生を設定した。こういう時にコードがないのは本当に便利だ。
リピート再生に設定されたのを確認し、俺はベッドに戻るとサチを背中から抱きしめた。
サチは俺の腕の中で曲を聴きながら眠りに落ちていった。
次の瞬間、サチにあの曲の事を話すのを忘れたことに気付いた俺が声を上げると、サチが頭を動かして俺の方を向いた。
「どうしたのコータ?」
薬のせいでかすれてしまった声が痛々しい。
「今日、リサイクルショップに行ったんだけど、そうしたら、あの曲がわかったんだ」
俺が言うと、暗い部屋でも明らかに、サチが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「それがさ、あのおばさん魔法使いだよ。もう絶対に!」
俺は言うと、事のあらましをかいつまんで説明した。すると、サチがすぐに聞きたいというので、俺はベッドから出ておばさんから譲ってもらってきたスピーカーを枕もとに置き、MP3プレーヤーを使って曲をかけた。
音のない部屋に静かにピアノの音が響き、男性ボーカルの囁くような、自分の想いを語るような歌が流れた。壁の薄いアパートだから大きな音は出せないけれど、枕もとのスピーカーから流れる曲は、サチが聞くには充分な音量だった。
「この曲。懐かしい・・・・・・」
サチは言うと、瞳を潤ませた。
「なんか、こうして聞くと、この歌詞、あたしとコータみたい。お互い、変えられない過去と辛い記憶と、冷たい親と・・・・・・。ただ、抱き合うしかできないのに、それももうすぐ出来なくなるんだね・・・・・・」
サチの言葉に、俺は頭を横に振りながらサチの元に戻ってサチを抱きしめた。
「もう一度、コータと愛し合いたかったな・・・・・・」
「そんなことない。俺は、サチ以外なにも要らない・・・・・・。サチがそばにいてくれれば、それだけでいいんだ・・・・・・」
でも俺には、サチの病気が良くなるとか、ドナーが見つかるとか、治るとか、そんな気休めにしかならない言葉を口にすることはできなかった。そうあって欲しいとは願っているが、その言葉を口にすることが、逆にサチを傷つけるような気がして、口にすることはできなかった。
短い曲はすぐに終わってしまい、涙を流すサチのために俺はもう一回曲をかけた。
「この二人、幸せになれなかったのかな・・・・・・」
「二人は幸せだったんだよ」
「コータが愛してるって言ってくれるのが、あたしの精神安定剤なのと一緒だね」
サチがかすかにほほ笑んだ。
「それは、俺も同じだよ。サチが俺のことを好きだって言ってくれるのが、俺にとっては一番だから」
俺の言葉にサチが微笑む。
失いたくない。絶対に失いたくない。サチを失うくらいなら、俺の命をサチに、俺の命をサチにすべて差し出しても構わない。
「温かくなったら、散歩に行こう・・・・・・」
サチは歩けないから車いすが要るけれど、マスクをしてれば先生も許してくれるはず。俺はそう思うと、サチのためにもう一回曲を流した。
「散歩・・・・・・。もう、あたし歩けないよ」
「それは、先生に車いす借りてくるよ」
「じゃあ、桜の花、もう一度見られるかな?」
サチの言葉に、俺は二人で花見に行ったことがないことに気付いた。
「そうだな。二人で見に行こう」
俺は言うと、サチをぎゅっと抱きしめた。
まだまだ外は寒いが、もう春の声は聞こえてきている。桜が咲くまではあと少しまでとは言わないまでも、そう遠くはない。それに、そんなに早くサチを失うなんて考えたくもない。
「今年こそ、見に行こう。いつも、銭湯へ行く道の桜を見上げて夜桜なんてごまかしてたけど、今年はちゃんと見に行こう。俺もサチと一緒に桜が見たいよ」
俺の言葉に、サチはコクリと頷いた。
「もっと、曲かける?」
静まり返った部屋に気付いた俺が問いかけた。
「うん、眠るまで聞いていたい」
サチの言葉に、俺はライトの明かりでマニュアルをパラパラとめくりリピートして再生する方法を確認した。
小さな液晶画面を確認しながら、リピート再生を設定した。こういう時にコードがないのは本当に便利だ。
リピート再生に設定されたのを確認し、俺はベッドに戻るとサチを背中から抱きしめた。
サチは俺の腕の中で曲を聴きながら眠りに落ちていった。