君のいた時を愛して~ I Love You ~
ふと気付くと、バッテリーが切れてしまったようでスピーカーからは曲は聞こえなくなっていた。それに、空いていたカフェレストランも人でぎゅうぎゅう詰めになっていた。
人々の喧騒を遮るように『これからおにぎりを一人一個配ります』という声が聞こえてきた。
おもえば、サチが泣き叫んだから、朝食もろくに取らず、お昼休憩をとる前に地震が来て、空腹で喉も乾いているはずなのに、俺は自分が飲まず食わずだったことに気付いた。
「おにぎりか・・・・・・」
サチが食べられるだろうかと、俺は不安になった。
「サチ、夕食におにぎりが配られるらしいよ」
俺が声を掛けてもサチは返事をしなかった。
「サチ、サチ・・・・・・」
何度呼んでもサチは返事をしなかった。いつの間にかつないでいたはずの手がほどけてだらりとぶら下がっていた。
「サチ・・・・・・」
俺は慌ててサチの手を掴み脈をとった。
「・・・・・・」
脈が弱くなったサチの脈は取りづらく、特に寝ているときは脈がないと何度も驚かされたことがあるから、俺は慎重に何度もトライした。
「そんな・・・・・・」
脈が取れないので俺はサチの口元に手をかざした。脈が取れなくても、こうすれば呼吸を確認できるから。それなのに、いつも感じる温かいサチの吐息を感じることはできなかった。
「サチ、サチ、起きてくれ、サチ!」
思わずサチの体を揺さぶると、サチの体はまるで人形のように椅子から滑り落ちそうになった。
「あぶない!」
慌ててサチを抱きとめようとした俺は、いつもの軽いサチからは考えられないその体の重さにサチと一緒に床にもんどりうって転がり落ちた。
「大丈夫ですか?」
近くにいた人が驚いて俺とサチを起き上がらせようとして異変に気付いた。
「病院の人を呼んだ方が良い」
「呼吸してないぞ・・・・・・」
にわかに周りが騒がしくなり、俺は必死にサチを抱き上げて中嶋先生のところに連れていこうとしたが、サチのやせ細った体が重くて床から持ち上がらなかった。
人をかき分けるようにして誰かが近づいてくる足音が聞こえ、俺はサチの体から引きはがされた。
「失礼します」
白衣を着ている若い男性と看護師の二人がサチの容態を確認してくれた。
「心肺停止、いつからですか?」
いつからと言われても、不覚にも寝てしまった俺には答えることができなかった。
「この病院の患者さんですか? それとも、避難の方ですか?」
医師の問いに、俺は『中嶋先生に白血病で・・・・・・』としか答えることができなかった。
「中嶋先生に電話して、患者さんの名前は?」
「サチです。中村幸です」
俺の答えを聞いた看護士が電話でサチの事を伝え、医師は心臓マッサージをしようとしたが、看護士がその手を押さえて電話を代わった。
「わかりました。・・・・・・ストレッチャー」
電話を切った医師の指示に従い、看護士がストレッチャーを引いて戻ってきた。
「ご主人も手を貸してください」
サチがぞんざいに扱われるのが嫌で、頭を持ち上げようとした俺に医師は手ぶりで足を持つように指示した。
看護師と医師、俺の三人でサチをストレッチャーに載せると、俺はサチの載せられたストレッチャーに置いて行かれないように、必死で後を追いかけた。
でも、それから後のことを俺はほとんど覚えていない。
人々の喧騒を遮るように『これからおにぎりを一人一個配ります』という声が聞こえてきた。
おもえば、サチが泣き叫んだから、朝食もろくに取らず、お昼休憩をとる前に地震が来て、空腹で喉も乾いているはずなのに、俺は自分が飲まず食わずだったことに気付いた。
「おにぎりか・・・・・・」
サチが食べられるだろうかと、俺は不安になった。
「サチ、夕食におにぎりが配られるらしいよ」
俺が声を掛けてもサチは返事をしなかった。
「サチ、サチ・・・・・・」
何度呼んでもサチは返事をしなかった。いつの間にかつないでいたはずの手がほどけてだらりとぶら下がっていた。
「サチ・・・・・・」
俺は慌ててサチの手を掴み脈をとった。
「・・・・・・」
脈が弱くなったサチの脈は取りづらく、特に寝ているときは脈がないと何度も驚かされたことがあるから、俺は慎重に何度もトライした。
「そんな・・・・・・」
脈が取れないので俺はサチの口元に手をかざした。脈が取れなくても、こうすれば呼吸を確認できるから。それなのに、いつも感じる温かいサチの吐息を感じることはできなかった。
「サチ、サチ、起きてくれ、サチ!」
思わずサチの体を揺さぶると、サチの体はまるで人形のように椅子から滑り落ちそうになった。
「あぶない!」
慌ててサチを抱きとめようとした俺は、いつもの軽いサチからは考えられないその体の重さにサチと一緒に床にもんどりうって転がり落ちた。
「大丈夫ですか?」
近くにいた人が驚いて俺とサチを起き上がらせようとして異変に気付いた。
「病院の人を呼んだ方が良い」
「呼吸してないぞ・・・・・・」
にわかに周りが騒がしくなり、俺は必死にサチを抱き上げて中嶋先生のところに連れていこうとしたが、サチのやせ細った体が重くて床から持ち上がらなかった。
人をかき分けるようにして誰かが近づいてくる足音が聞こえ、俺はサチの体から引きはがされた。
「失礼します」
白衣を着ている若い男性と看護師の二人がサチの容態を確認してくれた。
「心肺停止、いつからですか?」
いつからと言われても、不覚にも寝てしまった俺には答えることができなかった。
「この病院の患者さんですか? それとも、避難の方ですか?」
医師の問いに、俺は『中嶋先生に白血病で・・・・・・』としか答えることができなかった。
「中嶋先生に電話して、患者さんの名前は?」
「サチです。中村幸です」
俺の答えを聞いた看護士が電話でサチの事を伝え、医師は心臓マッサージをしようとしたが、看護士がその手を押さえて電話を代わった。
「わかりました。・・・・・・ストレッチャー」
電話を切った医師の指示に従い、看護士がストレッチャーを引いて戻ってきた。
「ご主人も手を貸してください」
サチがぞんざいに扱われるのが嫌で、頭を持ち上げようとした俺に医師は手ぶりで足を持つように指示した。
看護師と医師、俺の三人でサチをストレッチャーに載せると、俺はサチの載せられたストレッチャーに置いて行かれないように、必死で後を追いかけた。
でも、それから後のことを俺はほとんど覚えていない。