君のいた時を愛して~ I Love You ~
延々と車に揺られ、見知らぬ家に連れてこられたコータは、車を降りるタイミングで脱走を企てたが、体力には自信があっても、ずば抜けて足が速いわけでも、格闘技ができるわけでもないコータは、自分でもガッカリするほどすぐに男たちに取り押さえれてしまった。
「あんた達、いったい何が目的なんだよ!」
コータは声を荒立てたが、男たちは強制的ではあったが、決して乱暴なことはせず、コータを家の中へと連れて入った。
豪華な応接間の柔らかいソファーに押さえつけられるようにして座らされると、向かいには見たことのない女性と、車の中で母の名前を敬称もつけずに呼び捨てにした男が座っていた。
「悪いが、少し席を外していてくれないか?」
男の言葉にコータはこれ幸いとソファーから立ち上がろうとしたが、すぐに『幸多は座っていなさい』と言われ、再びソファーに座りなおす羽目になった。
コータを強引に連れてきた男が部屋から出ていくと、コータは仕方なく正面に座る夫婦を見比べた。
二人は長年連れ添った夫婦らしく、お揃いの指輪をしていた。しかし、女性の方は少し困惑しているようでもあり、まるで値踏みするかのような視線でコータのことを見つめていた。
「今日は遅いから、手短に話をする」
男の方が口を開き、コータは男のことを見つめた。
「私の名前は、渡瀬航(こう)。隣に座っているのは、家内の薫子(かおるこ)だ」
名前を言われても、コータには誰だか全くわからなかった。
「お前は、私の息子だ」
「はあ? 何バカなこと言ってるんですか、人の事拉致した挙句。バカバカしい」
コータは呆れて頭を横に振った。
「お前の母親、洋子と私は学生時代交際していた」
男の言葉に、母の言葉が蘇った。
『あなたのお父さんとお母さんはね、大学時代からの付き合いだったのよ。でも、卒業してすぐに事故で亡くなって。結婚の約束はしていたんだけれど、あなたにお父さんのいない寂しい思いをさせてしまってごめんなさい』
「どなたか知りませんけど、悪ふざけは止めてください。俺の父親は交通事故で俺が生まれる前に亡くなったんです」
頭に響く母の声を振り切るようにコータが言うと、航は小さくため息をついた。
「そうか、洋子はお前にそう話していたのか」
「いったい、あなたは誰なんですか?」
コータの怒りと焦りが声を荒げさせた。
「信じるのに、時間がかかるのはわかる。私も、お前の存在を知ってから、お前に逢うべきかを悩んだくらいだからな。だが、事実は変わらない。私はお前の父親だ」
「だから、違うって言ってるでしょう!」
コータはさらに語気を荒げた。
「静かに聞きなさい」
航の言葉には、なぜかコータを上から押さえつけるような圧迫感があった。
「洋子と私は結婚するつもりだった」
妻の薫子が息子の存在を受け入れると言ってくれた時から、航は息子には本当のことを放そうと決めていた。だから、航は事実を淡々とコータに伝えた。
「つまり、あんたは、母さんが財産目当てだって決めつけて、母さんを捨てたってことか?」
怒りのせいでコータの声は震えていた。
「今となっては、そういうことになる」
航の言葉に、コータはソファーから立ち上がった。
「俺、帰らせてもらいます」
「幸多さん、今日からは、ここがあなたの家よ」
薫子が慌てて立ち上がりコータの腕を掴んだ。
「放してください。俺には帰る場所も、待っている人もいますから、ここにお世話になるつもりはありません」
コータは振り払うのではなく、やんわりと薫子の手をずらすようにして自分の腕から離した。
「お前は、今日からここで暮らすんだ。弁護士にも、お前を正式に息子として迎える書類を整えてもらっている」
航の言葉にコータが驚いて振り返った。
「あの汚いアパートは明日にでも解約して、転がり込んでいる身元の分からない娘も追い出しなさい。それから、あのスーパーの店長には私から連絡して、お前が辞めることは伝えるから、今日はとにかく休みなさい。明日、スーツを買って、私と一緒に会社に出社するんだ。いいな、幸多。これからは、お前は自堕落な生活をしていた中村幸多ではなく、私の後継者、渡瀬幸多として暮らすんだ」
「冗談じゃない!」
コータの声に、扉が開くと先ほどのガタイのいい男が戻ってきた。
「もうしわけないが、息子を部屋に連れていってくれ。突然のことで、気が動転しているようだ」
航の言葉に、男はコータの腕を掴むと屋敷と呼ぶのがふさわしそうな大きな家の階上の部屋にコータを放り込むようにして入れると外からカギをかけた。
「あんた達、いったい何が目的なんだよ!」
コータは声を荒立てたが、男たちは強制的ではあったが、決して乱暴なことはせず、コータを家の中へと連れて入った。
豪華な応接間の柔らかいソファーに押さえつけられるようにして座らされると、向かいには見たことのない女性と、車の中で母の名前を敬称もつけずに呼び捨てにした男が座っていた。
「悪いが、少し席を外していてくれないか?」
男の言葉にコータはこれ幸いとソファーから立ち上がろうとしたが、すぐに『幸多は座っていなさい』と言われ、再びソファーに座りなおす羽目になった。
コータを強引に連れてきた男が部屋から出ていくと、コータは仕方なく正面に座る夫婦を見比べた。
二人は長年連れ添った夫婦らしく、お揃いの指輪をしていた。しかし、女性の方は少し困惑しているようでもあり、まるで値踏みするかのような視線でコータのことを見つめていた。
「今日は遅いから、手短に話をする」
男の方が口を開き、コータは男のことを見つめた。
「私の名前は、渡瀬航(こう)。隣に座っているのは、家内の薫子(かおるこ)だ」
名前を言われても、コータには誰だか全くわからなかった。
「お前は、私の息子だ」
「はあ? 何バカなこと言ってるんですか、人の事拉致した挙句。バカバカしい」
コータは呆れて頭を横に振った。
「お前の母親、洋子と私は学生時代交際していた」
男の言葉に、母の言葉が蘇った。
『あなたのお父さんとお母さんはね、大学時代からの付き合いだったのよ。でも、卒業してすぐに事故で亡くなって。結婚の約束はしていたんだけれど、あなたにお父さんのいない寂しい思いをさせてしまってごめんなさい』
「どなたか知りませんけど、悪ふざけは止めてください。俺の父親は交通事故で俺が生まれる前に亡くなったんです」
頭に響く母の声を振り切るようにコータが言うと、航は小さくため息をついた。
「そうか、洋子はお前にそう話していたのか」
「いったい、あなたは誰なんですか?」
コータの怒りと焦りが声を荒げさせた。
「信じるのに、時間がかかるのはわかる。私も、お前の存在を知ってから、お前に逢うべきかを悩んだくらいだからな。だが、事実は変わらない。私はお前の父親だ」
「だから、違うって言ってるでしょう!」
コータはさらに語気を荒げた。
「静かに聞きなさい」
航の言葉には、なぜかコータを上から押さえつけるような圧迫感があった。
「洋子と私は結婚するつもりだった」
妻の薫子が息子の存在を受け入れると言ってくれた時から、航は息子には本当のことを放そうと決めていた。だから、航は事実を淡々とコータに伝えた。
「つまり、あんたは、母さんが財産目当てだって決めつけて、母さんを捨てたってことか?」
怒りのせいでコータの声は震えていた。
「今となっては、そういうことになる」
航の言葉に、コータはソファーから立ち上がった。
「俺、帰らせてもらいます」
「幸多さん、今日からは、ここがあなたの家よ」
薫子が慌てて立ち上がりコータの腕を掴んだ。
「放してください。俺には帰る場所も、待っている人もいますから、ここにお世話になるつもりはありません」
コータは振り払うのではなく、やんわりと薫子の手をずらすようにして自分の腕から離した。
「お前は、今日からここで暮らすんだ。弁護士にも、お前を正式に息子として迎える書類を整えてもらっている」
航の言葉にコータが驚いて振り返った。
「あの汚いアパートは明日にでも解約して、転がり込んでいる身元の分からない娘も追い出しなさい。それから、あのスーパーの店長には私から連絡して、お前が辞めることは伝えるから、今日はとにかく休みなさい。明日、スーツを買って、私と一緒に会社に出社するんだ。いいな、幸多。これからは、お前は自堕落な生活をしていた中村幸多ではなく、私の後継者、渡瀬幸多として暮らすんだ」
「冗談じゃない!」
コータの声に、扉が開くと先ほどのガタイのいい男が戻ってきた。
「もうしわけないが、息子を部屋に連れていってくれ。突然のことで、気が動転しているようだ」
航の言葉に、男はコータの腕を掴むと屋敷と呼ぶのがふさわしそうな大きな家の階上の部屋にコータを放り込むようにして入れると外からカギをかけた。