君のいた時を愛して~ I Love You ~
 帰宅したコータは、いつもと違い、思いつめたようなサチの姿に不安を覚えた。
「サチ、何かあったのか?」
 コータの問いに、サチは頭を横に振って見せたが、それが『何もない』ではなく『何かあった』と言う意味であること位、既にコータにもわかるようになっていた。
「サチ、隠し事はしない約束だろ」
 コータは優しく言うと、サチの事を後ろから抱きしめた。
「俺は、何を聞いても、どんなことがあっても、サチを守るから」
 コータが言うと、サチはぽつりぽつりと母らしい人間から手紙が届いたことを説明した。
「そうか。手紙を送り返しちゃったのか」
 コータは言うと、しばらく考えてから『いっそ、挨拶に行こうか?』と言ったが、サチは頭がもげそうなほど激しく頭を横に振った。
「じゃあ、引っ越し先を探そう。それでサチが安心するなら」
 コータの言葉に、サチは嬉しくて涙が溢れるのを止められなかった。
 どんな時でも、サチの味方になってくれるコータ。自分の父を相手にしても一歩も引かず、サチの為に親子の縁まで切ってくれた。そんなコータにこれ以上、自分はどれほど迷惑をかけるのだろうと考えると、サチは胸の痛みが止まらなかった。

☆☆☆

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