君のいた時を愛して~ I Love You ~
 ここのところ、毎日、コータと結婚記念の写真をとる打ち合わせをしていたサチは、テーブルを整えながらも、笑みを止めることが出来なかった。
「小女子ちゃん、なんか最近、すごく楽しそうだね」
 先輩に声をかけられ、サチはしまりのない笑顔を慌てて仕事モードに引き締めなおした。
「いいんだよ、小女子ちゃんは笑顔で。そんなまじめな顔してるよりも、お客さんも小女子ちゃんの笑顔の方が喜ぶと思うよ」
 突然話題に入ってきた大将に、全員が思わず大将の方を振り向いた。
「笑顔なんて、開店したら、五分も続かないですよ。もう、毎日が戦争みたいなものですから」
 サチが言うと、全員が苦笑いを浮かべながら頷いた。
「それだけ、旨いってことだろ」
 大将は腕組みして満足そうに言った。
「確かにそうですよね」
 サチも思わず笑顔になって答えた。
「でも、その笑顔の理由は、賄いがうまいからじゃないだろう?」
 大将の突っ込みに、サチは開店前の忙しさも忘れてコータと写真を撮る計画を立てていること、そして、仕事の後にドレスを見に行くのだということを話してしまった。
 聞いていた大将の表情は嬉しそうで、幸せそうだった。
「おもえば、男ばっかりの店で、初の社内恋愛、社内結婚ってやつだな」
 大将の言葉に、『鯖』が答えた。
「それを言うなら、店内結婚でしょうね大将。それに、『鰆』の奴、小女子ちゃんを大将に紹介した時、既に小女子ちゃんと付き合ってたんでしょう?」
「いや、友達だって紹介されたぞ。なあ、小女子ちゃん」
「そんなの、嘘に決まってるじゃないですか!」
 『鯖』の言葉に、サチは慌てて答えた。
「働き始めた時は、ただの友達でした。でも、私の片思いだったので」
 サチが本当の事を話すと、サチを狙っていた男性陣はがっくりと肩を落とした。
「ほらな、だって、紹介した時の『鰆』の奴、そんな色気全然なかったからなぁ。まあ、小女子ちゃんが『鰆』の事を好きだってのは、すぐに分かったけどな」
 大将の言葉に、サチの顔が真っ赤になった。
「そ、そ、そんなに、あからさまでしたか・・・・・・」
「はは、冗談に決まってるだろう」
 大将は言うと、大きな声で笑った。
「大将、酷いです」
 サチは言うと、両手で顔を覆った。
「大将、いい加減厨房に戻ってくださいよ」
 厨房から呼び声がかかり、大将が姿を消すと店の中は再び戦闘モードに戻っていった。
「暖簾出します!」
 暖簾出しの声がかかると、更に緊張感が増した。
「いらっしゃいませ!」
 客を迎える声がかかると、それぞれ自分の割り当てのテーブルと厨房を隔てるカウンターとの往復の戦いが始まった。

☆☆☆

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