お嬢様、今夜も溺愛いたします。


「そういえばさ、家庭科の時女子しかいなかったね」


片付けも終わり、教室へと戻る私たちの隣をキャッキャウフフと通り過ぎていく子は女子ばかり。


みんな頬を赤く染めてラッピングしたものを持ち、この後のなにかを期待してるよう。


「あーなんかクッキーを作る時だけは男子は外に追い出されるって聞いたことあるな」


「外に追い出される?」


「そうそう。女子が好きな人のためにクッキーを作って、それを男子にあげる風習みたいなのがあるって」


「へぇ……」


つまり女子が作ったクッキーを男子が受け取るってわけか。


なるほどねぇ。

いつもなら進んで男子と体育をする紗姫が行かなかったのは、なにげに界さんにあげたかったからなのかも。


だるいって顔をしつつも、本当は作る気満々だったのかな、なんて。


「もちろん俺は誰にも渡さねーよ?」


ぎゅっと袋を大事そうに抱える紗姫。


「私だって誰にもあげないよ。
十夜さんのためにって作ったから」


結果がどうであれ、私を喜ばせてくれようとした十夜さん。


その気持ちに私もなにかしてあげたいって思ったんだ。


「それにしても、“ 十夜さん ”とはねえ?
いつの間に?」


「そ、それはそう呼んでくれって本人が言うからっ……」


昨日のことがフラッシュバックして頬が火照る。

ほんと恥ずかしい……


「あれ美都ってば顔赤いぞ?
何を思い出したのかな〜」


「もう紗姫!!
からかわないでっ!!」


「ふはっ、ごめんって!」



吹き出して走り出した紗姫を追いかけるように私も後に続く。


無事十夜さんに渡せますように。
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