お嬢様、今夜も溺愛いたします。

「ご案内致しましょうか」


「えっ?」


俯いていた顔を上げれば、メイドさんはふふふっと上品に笑った。


「黒木さんのことが心配なのですよね。
良ければお部屋にご案内致しましょうか?」


「はっ、はい!
お願いします!」


ダッシュでネグリジェから着替えて、メイドさんと部屋を出る。


「あまりに心配でたまらないというお顔をされておりましたので、可愛らしくって。よろしかったですか?」

「な、なんかすみません……」


隣を歩くメイドさんにクスクス笑われて、恥ずかしくて俯いた。


十夜さんの具合が心配なこと、そんなに顔に出てたのかな……


「ここでございます」


しばらく歩いて着いたのは、私の部屋とは違う館の部屋。


「ここらはすべて、執事やメイド、コックなど屋敷に仕える者の部屋が集まっています」


「そうなんですか……」


お屋敷の中は広いし、絶対に迷うって分かってるからこっちの棟に来たことはなかった。


「ただいまの時間から夜になるまで基本、屋敷の者はみな、ここらには仕事でいませんので。どうぞ、ごゆっくり」


「えっ!?」


人差し指を唇に当て、ふふっと微笑むメイドさんはそのまま廊下の先へと消えていった。


別にメイドさんは変な意味で言ったんじゃなくて、ただ単に近くにはいないよって教えてくれただけで。


平常心、平常心……


ふうっと胸に手を置いて深呼吸。


うんと一つ頷いて、コンコンとドアをノックした。

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